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「あ、いらっしゃいませ」
リタ君の表情が少し柔らかい。どうやら初めての客ではなさそうだ。
「昼間のお礼をしたいと思って。入っていいかしら?」
カウンターの中に話し掛けた言葉遣いは、語尾まで上品。それでもあまり嫌味には感じない。
たぶん、私達の親よりも歳上だろう。色はグレーだが艶やかなストレートの髪の毛は上品に一つに束ねてあって、女性の印象は私の中では『貴婦人』といった感じだった。
「勿論です。テーブル席の方にどうぞ。お身体の方は大丈夫ですか?」
女性が高齢で小柄な事を踏まえて低いテーブル席を勧めるリタ君らしい気遣いに軽く首を振って、彼女は背の高めのカウンターのスツールに腰掛ける。
淑やかで、凛と。女性のその佇まいを惚けて見ていた私に、微笑みながら会釈してくれた。
効果音で「ごきげんよう」とでも聞こえてきそうな空気感を纏っていて、私もつられて「あ、どうも」とペコリと頭を下げる。
そんな間の抜けたやりとりを横目に、リタ君はコースターの上に水の入ったコップを置いて言った。
「お昼よりも顔色は良さそうだ。安心しました。店から見えるところだったから、気付けてよかったですよ」
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