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「ごめんなさいね。私ったら、年甲斐もなくよく知らない街を好きに歩き回って、結局疲れてしまうなんて。バーテンさんに気付いてもらえて、本当によかったわ」
どうやら今日の日中、初めてこの街を訪れた女性が歩き疲れて店の近くでうずくまっているところをリタ君が発見し、店に招き入れて介抱していたらしい。
「今日は不在ですが、店主がお客さまと同じくらいの年齢なんです。僕のお爺ちゃんなんですけど、放っておけないっていうか。なんだか心配で」
店主がお爺ちゃん? そうなんだ。ここに何度も通ってるけど、そんな情報知らなかった。店主のお爺ちゃんなんて、会った事もない。
「若いのに、お優しいのね。休ませてもらったから、もう大丈夫よ。ありがとう」
リタ君は頭を下げながら、少しおどけて見せる。お姉さん、ご注文は。茶化すような誤魔化し方で、メニューをカウンターに置いて尋ねた。
「お姉さんなんて、何年も呼ばれてないわ。もう、可笑しいお世辞ね。でも、ごめんなさいね。私、お酒もコーヒーも飲めないの」
顔立ちが少し洋風で、高い鼻先が少し下を向く。リタ君が女性のそんな様子を見逃す筈がない。
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