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「……わぁ」
それまで間接照明となっていた店内の灯りに、いくつか明るめの直接光が加わった。
薄暗い中ではそれまで気付けず、それは普通のバーでは見られないようなもので、私は少し間の抜けた感嘆を漏らす。
カウンターの五つの全ての席の手元の辺りを照らす、アームライト。少し背の高めのベッドサイドライトのようなお洒落なデザインで、手元のティーカップを映えさせる為には幾分明る過ぎる光量だったが、それに理由があることはすぐに分かった。
リタ君の後ろにある、三段の酒棚。
上の二段は、洋酒の瓶やグラスの数々。コーヒー豆のストッカーに、ティーポット。
そして一番下の段が、端から端までスポットライトで照らされていた。そこに並んでいたのは、無数の文庫本。数百冊の小説が、綺麗に整列して背表紙をこちらに向けている。
「これ、小説、だよね?」
「ええ。全部、小説の文庫本です。お姉さんは、読書は好き?」
「うん、よく読むよ。でも」
カウンターから見える本のタイトルは、そこそこ読書好きな私でも知らないものばかりだった。
いや、タイトルだけじゃない。
その背表紙の下の方に書かれている作者の名前も、一部の有名作家を除いて私が知らない小説家が殆どだった。
そして、並んだ文庫本の全てが、
「薄い、でしょ?」
また心を読まれた。
少し驚いてリタ君を向いても、彼はそれを気にも掛けず続ける。
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