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もう少しで片付けが終わろうという頃、加奈江さんがゴミ袋を抱えて表に出てきた。
「ああ、またやられちゃったんだ」
加奈江さんは、ほうきとちりとりを持った幹子を見るや否や、まるで他人事のような顔をして言った。
もっとも、彼女のこういう態度はいつものことだったから、幹子はたいして気にとめていない。それよりもむしろ、40代後半にもなって、いかにも20代向けの派手なワンピースを身に着け、メイクをばっちり決め込んでいることのほうがよほど気になる。
幹子はそんな彼女に対し、「朝っぱらからフル装備でご苦労様」と内心揶揄しつつ、
「いつまで続くのかなあ。アパートの管理会社に言ったほうがいいのかな」と、無難な言葉を選んで、愛想笑いを浮かべた。
「ゴミ置き場が目の前って、ホント大変よね」
労いの言葉を返してきた加奈江さんだったが、
「幹子さんの家と私の家って、ほとんど広さが変わらないのに、何で値段が違うんだろうって、家買うとき疑問だったけど、でも、結局こういうことだったんだよね」
予感はあったが、案の定、何度となく聞いたセリフが飛んできた。
幹子は「ああそうですね」という気持ちで、うんうんと黙って形式的かつ機械的にうなずくと、加奈江さんは勝ち誇ったような表情を浮かべて、さらにこう続けてきた――
「まあ、建売業者が何にも説明してくれなかったんだから、しょうがないよね」
加奈江さんとはお隣同士だったが、小庭と駐車場を挟んでいるので、彼女の家の建物からゴミ置き場まではゆうに20メートルほどの距離があった。
一方、幹子の家の造りは、3メートルほどの空間を隔ててはいるものの、ちょうどリビングの目の前がゴミ置き場になっていた。
そんな位置関係だったから、窓を開けていると、風向きによってはゴミの匂いが部屋の中に流れ込んでくることもあった。加えて、幹子の家の敷地のまわりを取り囲んでいるのはブロック塀ではなく、ステンレス製の柵だったので、ゴミ置き場が丸見えの状態にあった。
加奈江さんの家とは隣同士とはいえ、置かれた状況が全く違っていたから、不本意ではあったが、幹子がゴミの管理をするのは必然の結果だった。
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