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「それはそうと知ってる?」
幹子は嫌な予感がした。また、加奈江さんのマウンティング談義が始まる気配がしたからだ。
「2組の優奈ちゃんのママのことなんだけどさ」
優奈ちゃんとは、幹子の娘と加奈江さんの娘と同じ中学に通う子で、クラスは違うが同じ2年生だった。
「あのヒトさ、バツ1じゃなくて、バツ2だったんだって。ってことは、今の旦那さんで3人目ってことでしょう? だけど、そのわりにパッとしないよね。いまだに賃貸住まいでしょう? 一軒家とは言わないけど、あくまで私だったらって話だけど、せめてマンションぐらい買ってもらいたいって思っちゃうんだよね。何であのヒト、そんな甲斐性のない男を選んだんだろうね? まあ、他に何かすごーくいいところがあるんだろうけどさあ」
加奈江さんはそこまで一気にまくし立てると、ふふふっといやらしく口尻をあげてにやつきながら、
「また離婚なんてことにならないといいけどね」
などと、いかにも心にもないといった口調で余計なひと言をつけ加えた。
優奈ちゃんのお母さんがバツ2であろうが、どんな家に住んでいようが、今後の生活にどんな変化が起ころうが、加奈江さんに利益もなければ不利益もないはずなのに、どうして彼女はこんなにも他人のことが気になるのか、幹子には不思議でならなかった。
幹子はうんともすんとも答えずに、地面に視線を落とした。
そして、ふたたびほうきを動かし、残りのゴミをまとめ始めると、加奈江さんは話を打ち切るどころか、さらに新しい話題を持ち出してきた。
やれ野菜はオーガニックに限るだの、高3になる息子が模試で高得点を叩き出したから志望校をワンランクあげさせようと思っているだの、来週から旦那がアメリカ出張に行くから気忙しいだの、向かいに住む佐野さんの旦那さんはパチンコにのめり込んでいて家計が大変なことになっているらしいけど、ギャンブル好きの男なんて最低よねだとか、インプットしたばかりの、ママ友やご近所さんの噂話や、それに対する偏見たっぷりの批判など、訊いてもいないことを一方的にペラペラとしゃべっていたが、ひと通りアウトプットして気が済んだのか、
「そろそろエステに行く時間だわ。午後は美容院も予約入れちゃってるし、専業主婦っていっても暇じゃないわよね。今日は旦那の帰りも早いし」
下品な含み笑いを浮かべると、
「じゃあ続きはまた今度ね!」
と言い残して、すっきりした顔をして家に戻って行った。
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