名もなき神々は売名を

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「で、そのお願いというのはなんじゃ?」 「実は……とある神社で神が消えて、わたくしが新しくその神社の担当になったのですが、その……わたくしも、消えかかっているのです。でも、原因がサッパリ分からなくて……」  たしかに『神』は薄くなっているように見える。よく見ないと分からないレベルではあるが。 「担当になってすぐ消滅するなんてありえんじゃろう。上手く降臨できなかっただけじゃないのか?」 「わたくしも最初はそう思っていたのですが、何度人前に姿を現しても人々はわたくしを認識してくれないのです!」  ──目の前で仁王立ちまでしたのに! 『神』は叫び、突っ伏して泣いてしまった。実に情けない姿だが、人々に認識されないのは由々しき事態だ。  人が神々へお供え物を捧げ、祈ることで、初めて神は仕事ができる。祈りを捧げた人の前に降臨して、願いを聞き叶えるのだ。 「うーん……そうじゃ。儀式の手順が間違ってるんじゃないのか?」  大きな願いを叶えるためには面倒な儀式が必要だ。世代が移り変わると、儀式の内容が変化して降臨が上手くいかないことがある。その場合、こちらが合わせる必要があり、新しい手順が出来るまで降臨できなくなる。 「いえ……あそこは大掛かりな儀式は行われていません。新しく出来た場所なので、まだ儀式を作る土壌ができてないのです」 「新しい神社じゃと? それなら前任の神が消滅する理由がないじゃないか。不便であるほど願う人間は多くなるはずじゃ」 「そうですよね……」 「神の願いを叶えるのは神の仕事じゃないんが、仕方がない。例の神社を見に行ってやろう」 「本当ですか! 忙しくありません?」 「最近は余裕があるんじゃ。ちょっとぐらい他所の神社に行っても問題ない」 『神』はパァッと顔を輝かせて「ありがとうございます!」と何度も頭を下げた。 (こんな情けない姿を人間に見られたら失望されるじゃろうなぁ)  同期がこんなんじゃあ先に生まれた神になんと言われるか。考えただけでも面倒だ。 (しばらく他の神と距離を置こうかのう)
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