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往生際の生存戦略
死ぬそぶりを見せなかったというが自殺者遺族の見落としを責めるのは筋違いだ。決意を固めた人間はタガが外れる。確たるゴールラインを自分で定め人生の終止符めがけて全力疾走する。その途中を遺族は見ているのだ。だから元気そうに見える。キラキラと輝いている。ゴールは誰にも動かせない。
「ちょうど一週間前。私は子葉ダクト2282を掃除しました」
半狂乱でまくしたて技師を機械は遮った。つまらない朗読劇を強行するように聴衆を置き去りして話を進める。
「藪から棒に何よ?」
馬鹿にされたと錯覚したらしく逆上する。酒乱と自殺志願者は同じ薄氷を踏んでいる。
「アクロバティックな逃避行を目論んでいるのなら損をしますよ」
相手をなだめつつ時間を稼ぐ。パッセンジャー号と随伴艦隊の覚醒者は今のところ数名だ。リィン本人と統合幕僚府を司るレム睡眠状態の首脳二名。後者は寝たきりで立位もままならぬ、何重ものセーフティをスレイブ権限を濫用して解除し同時に工作用ドローンを総動員する。不足分は簡易ラボに追加発注する。
「いま私は忙しいの。この子を助けるために必死なんだからねっ!掃除の話なんかで…」
「どうにかなります」
撫子は静かに釘を刺した。
「えっ?」
^^
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