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プランクトンはどこから来たのか
蜘蛛メカが半裸の若い女性を口説いている。傍目に見ればそう見える。不道徳だ。しかし交わされる言葉は狂わしいまでに真剣だった。
「一週間前に窓を拭いた時、プランクトンはいなかった。この事実が自明する内容を理解できますか?」
ハッと目の色が変わった。
「亜光速で星間物質の雲を通過する船。目的地の恒星めがけてスイングバイ
している。GJ1214Bから海洋性プランクトンが飛んでくる可能性もL4工場衛星離床時に紛れ込んだ可能性もゼロ。小百合は最初から『ここにいた』?」
名前ぐらいは聞いたことがあるだろう。パンスペミア説である。いわく生命の種子が宇宙に遍在しており地球にも飛来したというのだ。立証はされていない。あくまでも仮説だが生命種子が亜光速船に付着する確率は小数点以下何万桁だろうか。
「夢を壊すようで申し訳ありませんが私は仮説を支持しません。その代わり量子力学を信用します」
ロボットアームがどこからともなく例の手紙を取り出した。
量子封印が点滅して解錠を待っている。
リィンはよれよれに捩れた肩紐を引きちぎり胸を露わにした。心電図が公開鍵になっている。
「もうわかってるよ。おばあちゃん」
孫娘は愛おしそうにプラスチック片を抱きかかえた。しゃがんで胸中を熱くすると心拍数もあがる。そしてスキャナーが彼女の生体情報を感知した。
蜘蛛の脇腹が開いてゴトンと重々しい何かが転がり落ちる。
蚊の鳴くような合成音声に「わかってるよ。わかってるけど…なんて言いえばいいのかわからない…おばあちゃん…」
リィンのすすり泣きが重なってハッピーバースデーの唄が聞こえない。
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