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long long ago and far faraway...
本当は黙っておけと厳しく言われていたのだが差出人はプランクトンの分布と濃度を見誤ったようだ。予定より三光年も早くプロセスが始まった。
種を明かすと速達の投函者は私だ。リィンの祖母と病床で話す時間はたっぷりあった。そこで私は孫娘がラグランジュL4の工場衛星で訓練を行う間、ドローン講習のオンライン端末を通じて成年後見人契約を結んだ。祖母の死後に秋島諸島は海面上昇の波に呑まれる。しかしそれはまだ何十年も先の話だ。私達はリィンに内緒で数々のばくちを打った。
まず手始めに遺産の運用だ。彼女からリィンに介護費用の一部を生前贈与し信託基金を設立する。その財団名義で投機を重ねてそこそこの金額を稼いだ。
それで秋島諸島の土地を根こそぎ買収しカーボンオフセット補助金の対象となる樹木をわんさと植えた。緑豊かな島々が吸収する炭酸ガスの排出量は枠そのものを扱う先物市場で高値で取引される。
潤沢な資金を地球外生命体探索の研究プロジェクトと海洋性プランクトンのベンチャーキャピタルに投資した。
GJ1214を取り巻く生命種子の雲は私たちがL4工場衛星に依頼した深宇宙電波望遠鏡によって発見された。
パッセンジャー号が地球軌道から旅立って二年。試験飛行の意味は革命的に変わった。
ドロワムシ属――地球生命体互換なSynchaeta triphthalmaは海の星に王国を築いていた。終末期ケア病棟にいる祖母と私はアイコンタクトし合ったものだ。同時に私は彼女にある先進突破医療――ムーンショットと呼ばれる全額自己負担の極超高額医療を勧めた。
結晶化である。
生身の体は老いさらばえて朽ちようとも遠い未来の医学に一縷の望みを託せるのならば試さない選択肢はないだろう。
出発して三年目ともなると割り当てられた量子ペアが払拭する。ましてや私たちは濃密な打ち合わせを毎日のようにしていたのだ。
残り少ない時間が祖母の背中を押した。
最後に私は裏庭の花壇を含む土地に絡む権利を一切合財引き受けた。
そして今後の計画を遺言書にしたためた。
秋島諸島の実家は高台に移設される。そこで契約農家がひまわりの栽培を続けてくれる。
そして、いよいよここからが、彼女から孫娘に贈られる壮大な未来の遺産だ。
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