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「おい、沼井。起きろ」
切れかかった電球が並ぶ薄暗い刑務所。
亮太は鉄格子の向こうで横たわる男に声をかけた。
「なんだよ……寝かせてくれよ。ったく」
男は舌打ちをしながら起き上がった。
「お前にひとつ訊きたいことがある」
「は? もう事件は終わったろーが」
憎たらしい目つきをした受刑者が睨みつけてくる。
「 沖野洋祐の件だ。本当にお前がやったのか」
「ああ、そうだよ。取り調べでも言ったじゃねーかよ」
――コイツ嘘をついてやがる。
「お前はどのみち死刑になる。本当のことを教えてくれ」
「けっ、きもちわりーの。何だよそれ」
「なあ、この傷を覚えているか」
亮太はスーツの袖をまくり、手の甲の火傷の痕を見せた。タバコの火でえぐられた傷だ。
「おっ、お前、まさか……」
男の目が大きく広がった。
「やっと思い出したか。沼井キリト。今でもこの古傷が疼くんだよ」
高校時代、亮太に卑劣なイジメを加えた男だった。
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