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「おいおい、汚ねーな……」
鉄格子の中で沼井が嘲笑う。
「お前が……杏菜ちゃんを抱いた、だと」
亮太はよつん這いの格好で息を乱し続けた。
「アイツからしたら最高の取引じゃねーか。オレのおかげでお天道様の下で暮らせるんだからよ」
亮太はシャツの袖で口元をぬぐった。酸っぱいものが鼻腔にこびりつく。
「ところで亮太くんよ。何でそんなこと訊きにきたんだ?」
「……」
亮太はゆらりと立ち上がった。もうすでに魂が抜けたように体はふらふらとしていた。
「おおーい! 同級生! 帰っちゃうのかー。もっとお話ししようぜ」
杏菜はこの男に抱かれたのか――。
世界一憎い、この男に――。
寒気がした。
沼井の汚い声音を背中に浴びながら、亮太は刑務所の外に出た。
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