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「どうしたの亮太くん。顔色悪いよ」
ビーフシチューをかきまぜる手を止めて、杏菜はキッチンからリビングへやって来た。
「少し、疲れてるだけだ」
亮太は椅子に座ったまま言った。
「ごめんね。亮太くんにはたくさん迷惑かけたもんね。これからはわたしが支えるから」
杏菜は亮太の元へ近寄ると、彼を背後から抱きしめた。
しかし――
「離せっ!!」
亮太はその両腕を振り払った。
「……えっ。どうしたの」
杏菜は怯えるように立ち尽くした。
「ごめんな。本当にごめん。オレが受け止めるだけの器がないんだ」
「何かあったの?」
「杏菜……」
杏菜、杏菜――亮太は鼻息を荒げた。
情緒がおかしくなっていた。
杏菜の手首をつかみベッドに連れていった。押し倒し、彼女の唇を奪い、体を求めようとした。
――が。
「うわあああぁぁぁあああああ」
亮太は頭を押さえ、髪の毛をくしゃくしゃにした。
「ねえ、亮太くん、亮太くんってば。どうしたのよ」
体が杏菜を拒絶した。
亮太は崩れ落ちると、嗚咽するように泣き続けた。
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