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それから、杏菜とはすれ違いの日々を送った。どれだけ杏菜を求めてみても、亮太の体はそれを拒んだ。あの男に杏菜は汚された。そう想像するだけで吐き気がした。
何度も受け入れようとしたが無理だった。
季節が変わる。さらに巡り、巡る。
杏菜と会う機会は減っていく。
亮太は決意した。杏菜に内緒で引っ越しを済ませ、携帯電話の番号も変えた。
そして、亮太は杏菜のもとを去った。何も言わずに――。
恋は地獄だ。
純真無垢な恋など、現実の世界にはありはしない。嫉み、恨み、裏切り、打算――
この世界のどこかで、今日も誰かが傷ついている。だから人は、ドラマや小説、音楽に美しい恋を託すのだ。求めるのだ。
誰もが醜い現実を抱えながら、生きている。
いつだって、恋は地獄だ。
無責任な愛が、誰かの人生を壊すこともある。
恋をすることがつまり、すでに罪なのだ。
亮太は退職願を出し、警察官を引退した。
警察署を出ると、街は銀世界におおわれていた。
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