92人が本棚に入れています
本棚に追加
/22ページ
卒業アルバムを脇に抱えたまま、亮太はスマートフォンを手に取った。
「はい、もしも……」
「ねえ、亮太くんだよね」
亮太が言いきる前に、女の声が遮ってきた。
「あの、失礼ですがどちらさま」
「わたしよ、わたし。溝倉 杏菜よ」
心臓が跳ねた。同じ高校に通っていた杏菜からの電話だった。大学も同じだった彼女。今はもう結婚して、沖野という苗字だ。
数年ぶりに声を聞く。
それがなぜ今……。
「杏菜……杏菜ちゃんなのか。番号が違うから気づかなかったよ。久々だね、元気にして」
「ごめん亮太くん。それどころじゃないの」
杏菜は緊迫した様子だった。
「どうしたの、落ち着いて」
受話器の向こうからは、冷静さを欠いた杏菜の吐息が聞こえてくる。
「あのね……」
「うん」
「亮太くんだから話すんだけど……」
「……」
――オレだから?
亮太はごくりと息を飲んだ。
「殺しちゃった」
「えっ」
「今ね、夫を殺しちゃったの」
ドサッ――
亮太は卒業アルバムを脇から落としていた。
最初のコメントを投稿しよう!