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no.2
勇紀が、店内に入ると、接客をしていたホステス達の視線が揺れる。
それほど、この男のカリスマ性は高く、瞬間で、人目を奪う危険さと色気が備わっていた。
誰もが、この男の特別になりたいと感じ、実際、あからさまなアプローチをかける売れっ子ホステスは後を絶たなかった。
一度、抱かれれば、ホステスとしての箔がつく。勇紀もしばし、将来的に商品として、見込みのある女は、務めの一貫として、抱いてやっていたのだった。
「あれ、誰だ・・・?」
勇紀の視線の先を、店の支配人が、直ちに確認すると、店内の隅で、うさぎの耳のカチューシャをつけたボーイを慌てて、呼んだ。
まだ、十代?二十代前半?の年の頃の少女のような顔立ちの青年が店内を小走りで駆けて来る。
「あ~、営業中だから、走んなって、あの、バカ・・・」
支配人が、ちらちらと側に立つ勇紀の顔色を伺う。
「はい。」
青年の瞳がきらきらと輝きながら、支配人と、勇紀を交互に見る。
「すんげぇ、可愛い・・・・」一見、厳つい表情の勇紀は心で独り言ちると、体裁を保つため、眉間にしわを寄せ、青年を見つめた。
「名前は」
「はい。一蝶一美(いっちょかずみ)と言います。」
「それ、源氏名・・?」
「あっ、本名っす。」
「お前、木村さんになんつぅ口のきき方してんだよっ。」
支配人の手が、青年の頭を小突くと、一美も慌てて、頭を下げた。
「木村さん、すみません。こいつ、入職したばかりで、まだ、礼儀がなってなくて・・・この世界の右も左も分からない奴でして・・・これから、厳しく躾けていきますんで、申し訳ありませんでした。」
「どうりで、素人の顔してるわけだ。で、どういうわけで、ここに流れ着いたわけ?」
「はい。こいつ、親の借金の肩代わりで、組の指令で、取りあえずは、ここに置くことになりました。最終的な行く末は、上が決めるそうです。おそらく、こんな容姿なので、男娼か・・・まぁ、そっち系のAVか・・・で稼がせるような話でした。」
一美は、この場に居づらそうに、うつむくと、うさぎの耳は悲しげに垂れた。
「あっ、そう。で、今は、何処に身を寄せてんだ。」
勇紀が、平静を装いつつ、支配人に尋ねると、一美は申し訳なさそうな顔で、支配人を見上げた。
「それが、うちに居候してるんですよ。けど、同棲している女が、いつ出ていくんだと、ちょっと、マズイ状況でして・・・・あっ、出過ぎた話をすっ、すいません!まぁ、てめえで、どうにかしますんで。はい。申し訳ありません。」
勇紀は、男女色めく店内を見渡すと、一呼吸置いて、一美を見た。
「こいつは、俺のところに住まわす。」
「えっ・・・木村さん・・・」
「店が終わる頃、迎えに来るから、下で待たせておけ。」
そう言うと、勇紀は、別の店へ、視察のため去って行ったのだった。
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