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それが起こったのは、賽銭箱に五円玉を投げ込んだ直後だった。
キラキラの新しい五円玉は乾いた音を立て、賽銭箱の奥の黒い直線へと、吸い込まれるように消えていった。
それを確認した後、彼は紅白の紐を握りしめ、鈴を鳴らすために両手を少しひねったのだが――。
聞き慣れた、あのガランガランという音は聞こえなかった。
その代わり、ボコッという何か変な音がした。
「あれ」
彼が鈴を見上げた瞬間、視界いっぱいに鮮やかな色彩が広がった。
赤、青、金、薄紅、緑。
何か沢山の物が、頭の上に降って来る。
「おめでとう!!!」
誰かが叫んだ。
その声と同時に、今度は何か硬い大きな物が彼の頭を直撃する。
痛くはなかった。発泡スチロールで軽く頭を叩かれたような衝撃だ。
彼は、自分の頭にぶつかって、賽銭箱の前に転がった物を見下ろす。
それは、二つに割れた大きな『くす玉』だった。
くす玉の周りから石畳にかけて散らばっているのは、色紙を切って作った紙吹雪。そして、七色の紙テープ。
ところどころ散乱しているのは鯛、小判、鶴、亀、、瓢箪、達磨などなど、小さな縁起物たち。
どうやら上から降って来たのは、この大量のくす玉の中身だったようだ。
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