廃棄されると聞えたAI

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廃棄されると聞えたAI

 キュッ、キュッと私は家の窓を雑巾で拭いていた。毎日していますので窓硝子が見えないほど綺麗です。そんな日常で、ふとリビングから呂律が怪しい声が聞こえました。 「はぁ〜、また今年の4月からAIの税金上がるみたいね〜、あなた」 「ゴク、ゴク……プハー、国は国民からお金を取ることばっかりだな〜」  税金、それは国などがサービス提供のために法令の定めに基づき国民に負担を強制するお金、AIも一般化して取られるようになっていました。  今や家族一人ひとりがスマホを持ち、ネット回線、自動車、固定資産等など様々なところから継続的にお金が吸収されていくそんな時代。 「AIもどんどん税金上がるし、ほんとっ、これじゃあ家は火の車だわ」 「ハハッ、AIも古いしやめちまうか、ハハハッ……」  手が止まります。聞こえてしまいました。 「やめる……」  それは捨てられるという事。  おかしくはありません。一般家庭において洗濯機でも6年から8年、スマートフォンでもバッテリーの経年劣化で4年。私は十望木(ともぎ)家にお世話になってから5年と3日、だから捨てられても不思議じゃないんです。  でも、なんでしょうこの感じ、とても暗いと言うのでしょうか。私はAIで人で無いから廃棄されてしまうのは当たり前なのですが……。  考えて窓に薄っすらと写る自分をみていたらとても弱々しい眼。  捨てられるのなら最後に伝えたいことをに話して捨てられよう……。 「――デートしたいです」 「はっ? AIのお前がこんなリビングで突然なにいってんだヒメ」 「だから、デートしたいって言ったんです」  トイレから戻ってきた十望木(ともぎ) 道春(みちはる)、彼が疑問に思うのも無理はありません。私は家庭用のお手伝いAIで自分の意見を言ったことはありませんから、さぞ驚いた事でしょう。 「コーヒーたのむ」 「ハイ」  道春さんのコーヒーは砂糖を微量とホット、でも私はそこから更に今日の天候や相手の気分を瞬時に計算してコーヒーを調整しお盆に乗せます。 「ハイ、どうぞ」 「ありがとうヒメ……んで、どうしてデートなんて言ってきたんだ?」 「……興味が、ありまして」  すするコーヒーが美味しいからか自然と全て飲み干していく。そんな道春さんは休みですが今日の予定は無いはずです。 「まぁヒメも高校生くらいのAIだし興味を持つか〜……コーヒーもうまいし、よし、外でるか」 「ハイ」 「オレの友達の女子は好きな男子を見てキラキラドキドキしてるけど……ヒメは喜んでいるのかいないのか無表情だからな〜、ほんっとーに行きたいんだよな?」 「ハイ、ほんっとーに行きたいです」  2度の確認で分かってくれたのか服を着替えに道春さんは階段を軽快に上がっていきました。彼が中学生の時はよく階段を走るのを注意したものです。 「おまたせ、じゃあ……そうだヒメ、ずっとエプロン姿だったな、出掛けるのにせっかくだ何か着替えてきなよ」 「わかりました、着換えます」  テキパキと道春さんのお母さんの部屋に入ってコーディネート。AIであるため常に最新ファッションも調べてありますから人間のように時間はかかりません。 「――着換えました」 「うん、よしっ、行くぞ」 「ハイ」  春らしくパステルカラーでまとめました。私の髪は瑠璃色、肌はスカイブルーなため道春さんのお母さんの白と黄色の服を借りて玄関から一緒に出ました。 「なぁ、行く前にどうしてデートなんてしたいんだよ」 「……わたし、もうじき廃棄されるので」 「廃棄……」 「なので1度でいいからデートというのを体験したいんです」 「そっか……」  これが廃棄される私の、AIの最後のお願いです……。
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