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真
『JFK』 ジョン・F・ケネディ国際空港。
アメリカ第35代大統領の名がつけ、1948年に開港したこの空港は70以上の航空会社が乗り入れられるNYエリアで一番大きな空港だ。
1、2、4、5、7、8とターミナルがあり
3、6は昔9つあった名残で統合や老朽化により取り壊されたのだと言う。
とある旅行者がここに到着した直後。
祖国のクーデターにより空港から出られなくなり、幻のターミナルで生活しながら人間関係を築いていく という映画の舞台にもなった場所なのだと映画好きの祠は話していた。
その話を思い出しながら外に出ると、つい先程 飛行機で泳ぎ進んだ 広大に広がる
アザーブルーの空を見上げる。
天気が良く、波紋すらない澄んだ水面。
それを見て深く空気を吸い込むと
八城 仄 は
なぜ自分が連れてこられたのか考えていた。
何の因果か駅でぶつかり、落とした財布を
取り間違えて出会った清水 仙寺。彼の家に住まわせて貰う事になったが仙寺と祠の保護者と名乗った長兄 硯 は同居の挨拶をした翌日に二人っきりでNYへ行くことにした。
「パスポート持ってる?」
頷いて答えると
「良かった。明日NY行くよ」
・・・なぜ?
訳がわからないまま空港に着くと硯はすぐに
学会に出ないといけないから と行ってしまった。
「仄ちゃん」
女性の声に振り向くとショートカットに
スーツ姿の女性が立っていた。
「良かった。遅くなってごめんね」
硯から子守りを頼まれたこの女性は
高木 真。
硯が東大生時代からの友人で国際弁護士をしているという。行く宛がなく働いていた
キャバクラ店から仄の荷物を持ち出してくれた際にも彼女が力になってくれたのだと硯が言っていた。
「先日はすみません…」
「いいから行くよ。
時間、間に合わなくなるから」
「は?」
お詫びを中断され、言うだけ言ってさっさと歩き出す真についていくと駐車スペースに停められた赤いBMWの前で立ち止まる。
「はい、乗った乗った。」
仄が助手席に座るのを確認すると真は颯爽と車を走らせた。
「まず5番街から行くから、飛ばすよ」
スマートな顔に似合わず ぐんぐんと真は
スピードを上げ走り抜けて行った。
馴染みのサロンで雑誌を手に取り空いていたソファに腰かける。
左手首に巻き付けた時計をちらりと覗くと予定通り進んでいる事に笑みをこぼした。
仕事にプライベートにびっしりと予定を立てる真は友人からの頼み事に使える時間を計算してこの後の買い物コースを考える。
鼻歌交じりに雑誌のページをめくろうとして
その指が止まった。
店の奥から騒がしい物音。
首を傾げると勢いよくドアが開いた。
「wait!calmdown!」
(待って!落ち着いて!)
「Don't touch!」
(触らないで!)
慌てながら追いかけて来る店員にそう叫ぶと、駆け足で待合室に逃げ込む。
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