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口が震えた。目頭が熱くなる。目を伏せる。胸でつぶやく。
──うん。
私が──教授の代わりをしていると告げると、「がんばれ」ではなく「がんばるな」といってくれた薫さん。
がんばりすぎても誰も褒めてくれない。がんばれなくなったときに、どうしてがんばれないんだと詰られるくらいだ。そういってくれた薫さん。
その薫さんがなごみさんに「出ていきなさい」といわれたら、自分に落ち度があったかと、きっと悩む。外に出たことで自分の周りの誰かを傷つけるんじゃないか。それくらいなら、ってきっと思う。
──自分なんかいないほうがベストだ、って。
それくらい彼は、優しい。
なごみさんが潤んだ視線を私へ向けていた。
「ここへ来てくれたのが、あなたでよかった」
はっとして顔をあげる。
吸い込まれそうに透きとおった、なごみさんの瞳。なごみさんがどんな思いでずっと薫さんをここで匿っていたか。それを思うと胸が熱くなって。痛くなって。叫びだしそうになって。
私はしっかりとなごみさんの目を見つめる。
それから力強く、うなずいた。
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