キュリオシティー

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赤黒い土の上でカマキリがバッタを抑えつけて食している。 バッタは次第に弱々しくなって、自分の置かれた状況を悟ったかのように動かなくなっていく。 数秒前までは食べられまいと踠いていたことが嘘のようだ。 カマキリは目をギョロギョロと動かし、自分だけのバッタだと言わんばかりにしっかりと鎌で挟んでいる。 バッタはピクン、ピクンと関節と触覚が跳ねるだけ。 生命がただの餌に変わっていくその光景を僕と紅林は屈んで眺めていた。 紅林は無機質な表情で、瞬きもせずにただじっとそれを見つめる。 「ねえ、あれも生きてるんだよね。」 ロボットである紅林にとって、生命の喪失が珍しいのだ。 特に、紅林は欠陥のあるロボットであるため感情というものを持ち合わせていない。 「そう。あのカマキリも生きてるし、あのバッタも生きてたんだ。」 「生き物ってどうして死ぬんだろう。僕達ロボットは死なないのに。」 紅林が相変わらず表情を変えずに言った。 「確かにそうだね。君たちは姿形は人間そのものなのに、どうして死までは再現されてないんだろう。」 「人間って勝手だよね。 自ら命を落とす人間もいるし。」 「世界がそうさせてるんだ。仕方ないさ。」 「でも、その世界を作ったのは人間でしょう。 やっぱり、人間って勝手だ。」 木に止まっていた鳥が飛び立った。 生命を見せびらかすように、自由に羽ばたき、広い空へと溶け込んでいった。 その日の帰り道。 僕は気になってあの道を通った。 不気味で普段は避けている道だが、紅林が来週から働く工場を改めて見ておこうと思ったからだ。 巨大な工場が住宅街に窮屈に押し込まれるように建ち、音を立てることなく異様な存在感を放っている。 中で何が行われているのかは分からない。実は人体実験が行われているという噂もある。 欠陥のあるロボットだけが集められる工場。 18歳までに感情が芽生えなかった紅林は来週からここで働かなければならない事になっている。 やっぱり、何度見ても不気味だ。 ここ周辺だけ気温が低い気がするし、空気が重い。 紅林には申し訳ないが、自分がロボットじゃなくて良かったとつくづく思う。 そう思えてる時点で僕がここに来ることは絶対にないのだが。 大きな門が重そうに自動で開き、真っ黒なバスが中に入っていった。 ここに長居するのは直感的に危ない気がするので、早めに立ち去ることにしよう。
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