世界が六畳で終わるなら

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「あ、やばミスった! ごめんカバー!」 「どこ、裏?」 「裏裏!」  コントローラーの操作音が聞こえないほど騒々しいSEとともに、連射で相手チームを落とす。勝利を教えるクレジットが画面いっぱいに表示されるのを見て、多田は大きく息を吐いてクッションにもたれた。 「は~っ、ぶね~。サンキュ、梶原。ナイスカバー!」 「多田もナイス。まさか勝てるなんてね」  多田は「ほんとに」と笑って、母さんが用意したレモンパイにフォークを入れる。  短く整えられた髪のせいなのか姿勢の良さのせいなのか、制服姿のままなのにとても格好良く見えた。  一方俺は、だらりと伸びた前髪を適当にはらって、指先まで隠れる袖の長いパーカーの奥からフォークをつまんだマメの仕分け人のような様相だ。別に気にしていないけど。そもそも、マメの仕分け人って現実にいるのかな。ゲームのしすぎでよく分からないや。 「なんかいつも悪いな。ゲームしてるだけなのにさ」  そう言いつつ柔らかいメレンゲをすくって食べると、多田は頬をゆるめた。こうやって嬉しそうに食べるから、母さんも多田が来るのを楽しみにしているんだ。きっと。 「いいんだよ。引きこもりの息子に話し相手がいるだけで、泣いて喜んでるんだし」  これも本当。クラスの委員長でみんなを支えるだけじゃなく、全く登校しない俺や、その母さんまでもを助けている。多田はヒーローみたいなものだ。 「ま、無理して行くこともないって。登校すんのが全てじゃないんだしさ」  フォークの先でメレンゲをすくって口にふくむ。メレンゲは好きだ。しゅわりと溶けた後もからまるような甘さが残って、ずっと食べていなくても長い時間しあわせが続くような気がする。体温が残ったクッションのように。 「学校のやつが、みんな多田みたいな人間だったらいいのに」  多田は眉を下げて、困ったみたいに笑うだけで何も言わなかった。  言わなくても分かる。この言葉は、多田が好きなうちの一つだから。薄く細められた目の奥が影を落としてきらりと光るのを、これまで何度も見ているから。 「それは難しい願いだなあ」  多田はきっと知らない。  冗談めかして返す言葉に混じる嬉しそうな気配に、俺が気付いていることも。俺が同じ気持ちで、言葉を選んでいるということも。 「そうだよね」  ため息交じりに笑い返して、メレンゲの乗っていないフォークを噛んだ。  あーあ……はやく俺だけのヒーローにならないかな。
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