ピンク色のお茶と無色の二人

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 誰かに自分から飲み物を買っていくとき、お水かお茶を選ぶ人が多い。相手の好みが分からないから、それでも特に好き嫌いに関係なく飲めるだろうと思われるものを選ぶから。斉藤にとっては、イチゴオレがそれなんだと思う。  薬みたいな味がする淡い色のお茶は、飲んだことを忘れられないほどの強い後味が長く続くのが特徴だ。飲んでいる間は甘いのに、飲み終わると重く鈍く残る。  斉藤はイチゴの絵がプリントされたパッケージを見ながら「でも」と呟いた。 「嫌になったら言って。いつか、女々しいが分かったときでも、そうでなくても」 「はあ? なんじゃそれ」  パックを解体していた手を止めて隣にいる斉藤を見た。 「他人の行動に「女々しい」とかなんとか呼び名をつけて自分は正しいですって顔しているやつのほうがよっぽど嫌やわ。ホモソごっこが鼻につくんよ。それはそれとして、お前が嫌になったらそりゃ距離は置く」  少しの間ぽかんとしてから、斉藤は笑う。飲みかけのイチゴオレを飲まないまま左右に振って、それから、またうつむいた。 「末野は、そのままでいてね」 「どうやろねえ」  そのまま。  斉藤よりも早くイチゴオレを飲み干す俺のまま。人付き合いの少ない俺のまま。適当で興味がないようでいてぼんやり味方でいる俺のまま。  斉藤が誰を見ているのか、気付いていない俺のままで。
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