眩い木陰

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「木登り教えてくれたのもレオのおっちゃんなんだぜ。見つけたら注意してくるクセに、もっとのぼるのにいい木があるってついでに言ってきたりすんの。あれは先生失格だよな」  僕は意味が分からなくてクリフを見上げる。お日さまの光をいっぱいに浴びた木々のまぶしい黄緑色が、風に揺られてチカチカしながら目に飛び込んできた。  クリフはセーラー襟についた泥を手ではらって、僕を見る。それから、にんまりと笑った。 「この木はいいぞお」  気付けば僕は、本を捨てて木にしがみ付いていた。靴の側面をすりつけながら、こぶに手を伸ばして体を持ち上げる。木登りなんかしたことない。でも、ゆるい風になびくぼさぼさのブロンドやところどころ黒くなった制服が、世界を優しくした気がした。手を伸ばさないとって思ってしまった。 「お~い、いいのかよ。見つかったら指導だぞ」 「偉そうに見下ろされるのが嫌になったんだよ! そんで先生に見つかったら、指導室に行くついでにあいつらに言い返してやる」  木の幹にこすれた手がひりひりする。滑らせてぶつけた膝は曲げると微妙に痛い。クリフが座っている枝の高さまでのぼると、「ニシシ」と笑われた。 「ついで、な」 「当たり前だろ!」  クリフがいるのとは別の枝に掴まって、滑らないように慎重に座る。僕に投げられた本が中途半端に開いてひっくり返っているのが、とても小さく見えた。 「なあクリフ」  僕の視線を辿っていたクリフが「おー?」と顔を上げる。 「これ、いい木だな」  通り抜けていく柔らかい風に髪を揺らして、クリフは目を丸くした。それからすぐに歯を見せる。 「だろ!」  そんなつもりはなかったのに、思わず笑い返してしまう。  太陽だって思った。まぶしくて、うっとうしいのに、あたたかくて、心が溶けてしまうから。
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