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さてと……いつまでも感傷に浸っていられない、今日のノルマを達成しないと。
「ケーキはいかがでしょうか? 地下1階に『特設コーナー』がございます」
「よう、姉ちゃん」
声の聞こえる方へカメラを向ける。赤い顔、左右に揺れる上半身。
酔っ払いのおじ様が声をかけてきました。嗅覚センサーが高濃度のアルコールを検出……
「ケーキ買ってやってもいいんだけど、何か芸やってみてよ。気に入ったら買ってやる」
「芸ですか? そうですね、私、歌うのが得意です。それでよろしければ?」
「ほう、歌ね。俺これでも昔はパンクロッカーだったんだよ。聴いてやろうじゃないか」
「わかりました、それでは……」
照明を暗く落とし、一灯のスポットライトを上から当てる。
両手を組み、目を閉じると、祈るように私は讃美歌を歌い始めた。
静かな夜、私は舞い降りる
豊かな者にも、貧しき者にも
等しく幸福をもたらすために
聖なる夜、私は旅立つ
大いなる母の元
父が御許を召し下さった
安らかな眠りと永遠の喜びが
皆にあらんことを
パチパチパチパチ――
いつの間にか、たくさんの人達が私を囲い、拍手を送ってくれていました。
「すごーい、うまーい!」
「ヒュー、クリスマスに最高!」
「姉ちゃん、やるじゃないか。柄にもなく、感動したよ。もう一曲お願いできるかな?」
「はい……喜んで」
私はみんなの笑顔に囲まれながら、暖かい最後の夜を過ごすことができました。
皆さん、ありがとうございました、そしてさようなら。
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