12月11日 18:30 曇り 気温6度

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 私の前に歩み寄り、じっと見つめられた。 「ありがとう、助かったよ。せっかく貯めたバイト代が無くなるとこだった」 「『学生さん』ですか?」  推定年齢19歳、茶色の「レトロリュック」を背負(しょ)っている。温厚な表情が柴犬にマッチング、可愛い。 「ああ、学生。今大学からバイト先に向かうところ」 「毎日ここを通りますよね? あの……いつも私のことを見てくれてましたよね?」  両手を重ね体をフリフリしながら、上目使いでチラッと視線を投げてみる。 「えっ?」と言うと、少し困った表情をした彼はもじもじと答えた。 「知ってたんだ……。うん、ちょっと気になっていて」 「そうなんですか! 『私も一度お話したいと思っていました』」  ああ、これはデータベースに登録されたセールストークなんだけど……今の気持ちを表現するにはこれがピッタリ。 「君はここにずっといるね、外出することはないの?」 「私は……このガラスの箱の世界でしか生きることができないので、残念ながら外に出ることができません」  コンコンとガラスを叩く真似をしてみた。 「君みたいな子を知っているよ。でも、勇気があれば……その壁を乗り越えることができるんじゃないかと思う」 「そんなこと考えたこと、一度もありませんでした。私も一度外に出てみたい、そして『人』の手に触れてみたい」 「あなた」の手を……と言いたかったけど、私には「勇気」がなかった。 「あ、もうバイトの時間だ、急がないと。それじゃまた」 「あの、あなたのお名前は?」 「名前? 名前は(ともる)」 「トモル」くん、私のメモリ領域に笑顔で手を振る彼の姿とプロフィールが登録された。  ハートマークの記号を添えて。
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