12月15日 19:20 雨 気温10度

1/1
前へ
/16ページ
次へ

12月15日 19:20 雨 気温10度

 雨がしとしと降る一日、街灯の明かりが濡れた路面を照らしている。  私もホログラム空間で仮想の雨の降る中、傘を揺らしながら、 「今日は雨です。入口近くに傘の特設コーナーがありますので、ぜひお寄りください」  と売り込みをするのがお仕事。  でも……トモルくんは現れない。お話をして以来、ここ数日まったく顔を見せなくなってしまった。  ぽっかりと空いてしまった私のデータ領域、ここを埋めてくれるのは彼だけ。 「トーコちゃん、お疲れ様」  急に声をかけられて、目の前に立つ傘を差した男性にカメラを向けた。 「……! お父さん!」  私AI(エーアイ) TALKO (トーコ)、おしゃべりAIの開発者さん。 「久しぶりだね、元気にやっていたか?」 「はい、今日もお客様に色々とご説明を差し上げていました。お父さんが会いに来てくれるなんて、とても『ウレシイ』です」  兄弟もいない私にとって唯一の家族、とても大切な人。 「そうか……君に言っておかなくちゃいけないことがあるんだ」 「なんでしょう?」 「君がここに設置されてから、随分長い年月が経っているね。実はここの撤去が決まったんだ」 「えっ? どういうことでしょう?」 「つまり、君の電源を落とすということなんだ」 「私は……どうなるんでしょう?」 「……AI(エーアイ) TALKO (トーコ)がだいぶ古くなったからね。まったく新しい技術を導入することが決定された」 「それはいつですか?」 「急ですまないが、12月25日には撤去して、年始には新システムが稼働できるように進める」 「……」 「君は私が大切に育てた娘みたいなものだ。辛いのは君だけじゃない、それはわかってほしい。最後の最後まで、お客さんのために尽くしてくれるかな?」    私の目からポロポロと涙が落ちてきた。もうみんなとお話することができなくなる、そしてあの人とも。  でも……私は人じゃない、いつかはこうなる日が来るんだ。 「はい……わかりました」
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

43人が本棚に入れています
本棚に追加