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「教科書見せてくれないかな?忘れちゃって」
突然だった。急にあの眩しい顔が近くに来たと思ったらそんなイケボを漏らした。つい頷くと、机が繋がってイケメンが余計に近くに来る。
「ごめんね、ありがとう。名前、なんだっけ?」
「あー…俺は久我。君は有栖川だっけ」
「そう。下の名前は?」
「和樹かずきだけど」
イケメンの顔が近くなってその目が俺を見つめると、男の俺でも胸が高鳴る。女子にモテたい俺だがこれは女子に嫌われそうだ。
「じゃあ、かずって呼んでいい?」
「あー、いいけど」
「ありがと。俺のことは遥斗だからはるって呼んで」
「ん、わかった」
呼び方を決めただけなのにイケメンはるは嬉しそうに微笑む。表情ひとつひとつが国宝級で俺のHPはそろそろつきそうだった。
「かず、何か音楽きくの?」
俺の机の隅に置いてあったイヤホンに目線をよこしながらはるは言う。俺はスマホを開いて音楽アプリを開いた。
「これとか。結構マイナーなんだけど、すごい中毒性があってね」
知るわけないのに俺はつい勧めるように画面を見せる。するとはるの表情は明るくなった。
「知ってるよ、いいよねこれ!こんなところに好きな人がいるなんて嬉しい、もしかしてこれも知ってる?」
するとイケメンもスマホを取り出して曲を見せてくる。その曲は隠れ名曲も言われるもので俺のテンションは爆発しそうだった。
「知ってる、知ってる!」
「嬉しいな…こんなところで会えるなんて。ね、昼一緒に食べない?」
「え、おう、いいけど」
今日は色々なことがあって頭が追いつかない。イケメンが転校してきて、そのイケメンとなぜか俺が話してる。それでそのイケメンと一緒に昼を食べることになった。なんだよこの展開。
「ありがとう、かず」
思わず胸が変な音をあげた。
イケメンはどこまでもイケメンかよ…。
悔しいと思う隙さえないこの男をみて、俺は色々諦めた。というより、諦める他なかった。
昼休みになると、はるはすぐに俺に声をかけてきた。
「かず、行こう」
「ちょっと待ってな」
俺が弁当を出して机の上を整理していると、その隙を狙って女子がはるに群がり始めた。
「遥斗くん、一緒にご飯食べよ?」
「屋上で食べるの!一緒行こうよ」
「ごめんね、先客がいて」
「えぇー!」
引き下がらなそうな女子達にイケメンはる様もお手上げ状態らしい。俺が助けられればいいけど、俺が入れば状況がめんどくさくなりそうだ。
「久我くん、私たち遥くんと一緒に食べたいから、譲ってくれないかな?」
女子のそんな優しい目線が俺に突き刺さる。優しい目線のはずだ、笑ってるし。けど、その優しい目の奥には何かどろどろした黒いものがある気がして、つい俺は頷いた。
「いいよ」
「わー!ありがとう!じゃあ行こ遥くん!」
馴れ馴れしそうにイケメンはる様の腕に抱きつく女子達。まぁあのイケメン具合じゃしょうがない。
「ほんとにごめん。けど、かずは俺が誘ったから。だからごめんね」
飛びっきりの王子様フェイスで女子達に告げると、弁当を手に持ちはるは俺の方へ足を進めた。
「行こ」
その2文字だけでもイケメンなこいつに俺は苦笑いを浮かべ頷いた。女子ははるに言われたからか特に俺を恨むこともせず、平和的に終わった。
衝動的に教室から出てきたものの、学校の勝手が分からないはるはすぐに足を止めた。
「どこで食べる…?」
「カフェテリアとか、空き教室でも屋上でもどこでも」
とりあえず食べても大丈夫な場所をあげると、余計に困ったようではるは首を傾げた。
「かずに任せてもいい?」
「じゃ、カフェテリア」
「わかった」
はるは嬉しそうに俺の後ろをついてくる。歩く度に視線が集まるが、そんなのはるは気にしないようだ。
「かず、カフェテリア人たくさんみたいだね」
「だな…どうする?」
「空き教室とかないの?」
「あるよ、めっちゃおすすめんとこ」
俺はなぜか今日あったばかりの、それもとびきりイケメンの白馬の王子様に、自分だけの穴場スポットを教えようとしていた。
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