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時間はあっという間にすぎ、とうとう放課後になってしまった。
はると帰れるのは嬉しい、俺には勿体ないくらいの幸せだ。けど、どうやってアスカに説明しよう。
「かず、なにぼーっとしてるの?」
「あ、ごめんなんでもない。行こっか」
今更か。はるは沢山の女子に一緒に帰ろうと誘われていたのに全部断ってくれた。なら俺もちゃんと伝えないと。
緊張のせいか足取りがゆっくりな俺の後ろにピタッとついてくるはる。俺はアスカのクラスの前へ来ると足を止めた。
「大丈夫?かず、顔色悪いよ」
「大丈夫……」
はるは心配そうに俺の顔を見ているが、それは余計に緊張するからやめてほしい。呼吸を整えて俺は名前を呼んだ。
「アスカ!」
その声と同時に目の前に現れたのはいつもの様に眉間にしわを寄せているアスカだった。
「帰んぞ」
「アスカ、今日は俺の友達も一緒でいい?」
「…は?」
その瞬間、まるで氷でも張り巡らされたかのように周りの空気は固まった。今のアスカの声が聞こえた人達も俺と同様に固まっている。その中で唯一はるだけが固まっていなかった。
どんどんと目付きが悪くなり、それは俺から後ろにいるはるへと向けられた。はるの顔をみるなりアスカの表情はもっと悪くなっていく。
「誰だてめぇは」
「俺は有栖川遥斗。かずと一緒のクラスで、今日転校してきたばかりなんだ、よろしくね」
「かず…?」
鬼のようなアスカの表情に怖気ないはるもすごいと思うが、それ以上にもうアスカは血管が浮き出そうなほどに怖い表情をしていてそれに驚いた。俺でもこんなに怒ったアスカは見たことがないかもしれない。
「うん、和樹のこと。かずって呼んでるんだ。それが、どうかした?」
「和樹だと?なにこいつにあだ名つけて馴れ馴れしく呼んでんだよ、誰の許可得たってんだ言ってみろや」
声を荒らげるのを制御しながら話すアスカの声と言ったらそれはもう、きいているだけで震えだしそうだ。それに先程から爽やか笑顔で対応しているはるを俺は尊敬する。
「え?誰かの許可なんて必要だったの?知らなかった、ごめんね。で、誰の許可が必要なの?」
「口にしねぇとわかんねぇのかよてめぇは。どんだけ頭空っぽなんだよ俺に決まってんじゃねぇか」
爽やかで素直に謝るイレギュラーのはる。いつもアスカが絡む人は皆怯えているのでこんなイレギュラーなはるをみて余計にイライラしているのか、そろそろアスカの拳は何かを殴りたそうに握りしめられていた。
「どうして君の許可が必要なのかな?教えてくれない?俺頭空っぽだからよくわかんなくて、ごめんね?」
この爽やか笑顔さえもこの文面では煽りに見えてきてしまう。煽りというより挑発だろうか。それが余計にアスカは気に食わなかったらしい。
そりゃそうだ、アスカにこんな口聞く人今まで居なかった。
「てめぇこそなんだよ、質問を質問で返してきやがって…」
「何か悪かった?俺はただ疑問に思っただけだよ。答えられないなら答えなくて全然大丈夫だよ?」
「話脱線してるから。アスカ、今日ははるも一緒でいい?」
キリがなさそうな会話に俺が終止符を打つと、やっと言い合いは終わり、その代わり沈黙が訪れた。
「……もし嫌っつったらどうするよ」
「そりゃ、俺とかず2人で帰るよ」
俺が答えるより先にはるがそう言うとやっと収まったアスカがまたヒートアップしだした。
「てめぇにゃきいてねぇんだよ黙ってろボケ!」
「アスカ!」
「はぁ?お前もしかしてこいつを擁護すんのかよ!?急に入ってきたんはそっちじゃねぇか!」
この狂犬みたいな男、1度でさえ宥めるのが大変なのに、2度目はもっと大変、もう不可能みたいなものだ。
「アスカ」
「んだよお前…」
俺がゆっくり名前を呼ぶと、いつもつり上がっている眉は下がり、悲しそうな表情をみせた。
あれ?
これは……
「じゃあかず、帰ろ」
そうはるが俺の手を掴んだ瞬間、またアスカの眉はつり上がり俺の腕を掴み強引に引き寄せた。
「てめぇ…」
「危ないよ、もしかずが怪我したらーー」
「うっせぇんだよこのカス」
「カスで構わないよ。けどかずのことをそんな乱暴に扱うのは見逃せない。君とかずを一緒に帰らせるわけにはいかない」
「ーーーーっ!!!!!」
その言葉が余程きいたのか、アスカは俺の腕を掴んだままズンズンと廊下を進んでいく。何も言わないアスカ、というより、何か言葉を発そうとしたらもう抑えが効かなさそうだから黙っているように見える。
「ちょっと、アスカ?」
何も返事はない。後ろをみると、すぐそこにはるがいて俺の手を掴んだ。
「かずを離して」
アスカは何も言わない。
「かずをーー」
声を荒らげたのはアスカではなく、俺だった。
「アスカ!!!!!!!!」
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