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俺の声と共に、嫌な音が廊下に響いた。
「……?」
「…行くぞ」
まだ状況を理解していないらしきはるはただ殴られた頬を触って廊下を見ていた。
まるで、俺今、殴られたのか?とでも言いそうな顔だ。
「アスカ」
さっきから俺の腕を引っ張るアスカだが、俺は足に力を込めて動かんとした。俺が名前を呼ぶと、アスカは必ず、どんな時でもこちらを振り向く。
「ごめん」
そう言い俺はアスカの手を振り払いはるの方を振り向いた。アスカはそれなりに力もあるし、喧嘩も強い。顔を殴られたんだ、はるはどうなっていることやら。
「はる…?」
後ろを向くと、そこには大勢の人だかりが出来ていた。耳を澄ますと、はるを心配する声がきこえてくる。
そうだ、ここは廊下。それにあの爽やかイケメンは人の視線を集める。だからそのイケメンが殴られたとなれば皆が心配するのは当然か。
俺が入る隙はなさそうだ。
人だかりの隙間から、愛想笑いで受け答えするはるが見えた。
ごめん。
そう心の中で呟くことしか俺は出来なかった。
「和樹、何してんだよ早く行くぞ」
「うん」
俺はまたアスカに腕を掴まれ、学校を出た。
いつもと同じように、何も俺たちは話さない。いつも何も話さないから、さっき会話したのが久々な気がして、新鮮だった。
今日もまた、何も話さないまま別れ道へたどり着いた。ここからいつも俺たちは違う道に進んで帰る。
いつもなら別れ道では止まらずそのまま互いに自分の帰路につく。けど、今日はその別れ道でアスカは止まった。
「和樹」
アスカが俺の名前を呼ぶ。いつもはバカとかアホとかお前とかで呼ぶのに、2人の時はこうして名前で呼んでくるからまた心臓に悪い。
それに、俺の事和樹なんて呼ぶのはアスカだけだから、学校で和樹と俺を呼ぶ声がきこえたらそれは絶対にアスカだ。
「俺と一緒に帰んの嫌か」
「え?」
「だから、俺と2人で帰んの嫌なんか…!?」
聞き返すと次は力のこもった声で言ってきた。
「嫌じゃないよ」
本当に、嫌じゃない。
「じゃあなんであのクソ野郎も一緒とか言うんだよ」
「え…っと」
クソ野郎って度胸あるな…なんでと言われるたら、なんて言えばいいか……
「はるが一緒に帰りたいって言ったから」
「俺は嫌だ」
「え?」
「俺はあのクソ野郎と一緒に帰る気はねぇ。断れ」
うーん…これはどうすれば……
「おい、俺とよりあいつと一緒に帰りたいのかよ」
「は!?」
「だってそういう事だろ!?」
「違うよ、3人一緒にと思って」
どんどん話がわからなくなってく。違う、3人一緒に帰れればなと思って俺は。
「あいつも、一緒じゃねぇと嫌なのかよ」
「せっかく誘ってくれたんだし」
「じゃあ、今日俺ん家寄ってけ」
「ええ?」
「そうしたら、あれも一緒でいいから」
言ってることがいつもわからないけど、今言ってることはもっとわからない。けど、まぁはるも一緒に帰れるならいいか。
「わかったよ…」
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