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「アスカ…」
「んだよ」
「手、繋いだまんまじゃなきゃだめ?」
先程からアスカは俺の腕ではなく手を握っている。男同士で手を繋ぐなんて周りから見たらどんな光景だろう。
「俺と繋ぐの嫌なんか」
またこうきいてくる……そういうわけじゃないのに。
「周りから見られたら変に勘違いされるだろ」
「変な……そうかよ」
何か言おうとしていたがアスカはそれを飲み込んだようで、大人しく俺の手を離した。そこから、アスカの家に行くまで、会話はなかった。でももうそれも慣れっこでなんとも思うことはなかった。
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「おかえりって、和樹くん!?どうしたの!?」
アスカの自宅へ入ると、驚くアスカのお母さんが居た。そういえば、アスカのお母さんと会うのはかなり久しぶりな気もする。
「お久しぶりです」
「なにそんな驚いてんだよ。遊びに来ただけだろうが」
「いつぶりよ家に友達連れてくるなんて!先に言ってくれればお菓子とか買ってきたのに……ごめんなさいね和樹くん、ゆっくりしてって」
謝りたい気持ちでいっぱいだったが、とりあえず上がらせて貰う。アスカのお母さんは後でお茶持っていくねと言ってリビングの方へと行ってしまった。
「行くぞ」
そういつものように俺の腕を掴むアスカ。とりあえずアスカの後について行き階段をあがり、アスカの部屋へと入る。
久しぶりに入るその部屋は昔と変わらず、殺風景ではあったがとても綺麗に整理整頓されていた。
アスカはベッドにどっかり座って俺の方を見ると、横に来いとでも言うように隣を叩いた。
アスカに誘導され俺はアスカの隣に座る。何を話すかも決めてない俺たちはもちろん話すことなんてなかった。
「アスカ、何するの?」
「はぁ?今考えてんだよ黙ってろ」
アスカに口答えしても勝てる気もしないので黙っていると、アスカのお母さんが入ってきた。
「ごめんね、お母さん少し買い物してくるからお留守番お願い。近くのスーパーだからすぐに帰ってくると思うけど…じゃあ、行ってくるわね」
アスカのお母さんはそう言いお茶をテーブルの上に置いて外出してしまった。ただでさえ気まずいのに助け舟を出してくれるアスカのお母さんまで出ていってしまった。
「…和樹」
「ん?」
「ごめん」
「へ?」
滅多に謝らないアスカが謝ったことにも驚いたが、何に謝っているのかさっぱりだった。そんなアスカの顔つきは申し訳なさそうにしょげている。
「さっき、あいつ殴ったこと」
「俺に謝ることじゃないよ、はるにーー」
「俺の前でそいつの名前出すな」
「…わかった」
はるの名前を出さなきゃ話は進まないと喉まで出かかったが飲み込んだ。
「お前、好きなやつとかいんの?」
「は?」
「は?いんのか?」
まさかアスカとこんな話をする日が来るなんて思ってなかった。まぁ俺の学校は共学だし、高校生だしな、好きな人くらい普通は出来るんだろうけど。
「居ないよ」
「ほんとか?気になるやつも?」
「うん、そう言うアスカは?この前も告られてたじゃん」
「は?居るわけねぇだろ!?好きなやつは居るけど」
「え」
俺はその言葉に驚いてアスカの方をみると、アスカは難しそうな顔をしながら歯を食いしばっている。その顔は赤かった。
「居たの?好きな人」
何もアスカは言わない。気になった俺はアスカの顔を覗き込むように手をベッドにつく。
「は!?居るに決まってんだろ!」
「誰?どんな子?」
珍しく俺のテンションが高いのに動揺しているのか一歩退くアスカ。
「は、え、い、うわけねぇだろ馬鹿が!」
その顔はどんどん赤くなっていく。俺はそれと共にどんどん気になってしまう。
「誰にも言わないから、な?」
「ち、っけぇんだよ!!」
そう俺は肩を押されて俺は押し倒される。アスカの顔はというとそれはもうりんごのように赤く今にも湯気が出そうだった。
「アスカ?ごめんて…」
無理強いしすぎたなこれは。押し倒された俺からアスカの顔色は見えないが、これはもう怒っている以外にないだろう。
「…アスカ?」
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