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アスカは俺を押し倒したまま、何も言わなくなってしまった。部屋の灯りで丁度よくアスカの顔が見えない。
「おい、アスカ」
名前を呼んでも、返事をしない。変な胸の動悸がしてくる。
「和樹」
俺の名前を呼ぶアスカ。
「俺……」
その時、今まで見えなかった顔がやっと見えた。
「…っ」
その顔の頬は色っぽく染まり、目は獣のように光り、何かを抑えるようにただ俺を見ている。野生の獣に襲われているようで、怖いと感じているはずなのに俺の頬まで赤くなる。
「アスカ、この体勢やめよ」
俺の方が耐えられなくなり、体を無理やり起こしてベッドから立ち上がる。その後も、ずっとあのアスカの顔が頭から離れなかった。
「アスカ、さっき何言いかけてたんだっけ」
話を戻そうとアスカの方をみると、アスカは布団にくるまっていた。俺は首を傾げアスカの体を揺する。
「おいアスカ、何してんだアスカ」
「うるせ」
籠ったアスカの声がきこえる。アスカは拗ねてるのか?俺何か悪いことしたっけな。
「アスカ、なぁ、アスカってば」
「んだよ和樹」
あー、これは拗ねてる。よく子供がおもちゃ売り場で見かけるあれだ。アスカが拗ねるなんて今までないからどうすればいいか……
「なんで拗ねてんだよ」
「……なんで」
アスカが話し始めると、俺はゆっくりベッドに腰を下ろした。
「なんで、わかんねぇんだよ」
その言葉の意味がまた俺はわからなくて、顔を顰めた。
「どういうーー」
俺が喋ろうと口を開けた途端、布団の中から手が伸びてきた。
「!?」
アスカは俺の腕を引っ掴みそのまま布団の中へと引きずり込んでしまった。俺の腕はアスカが抱きしめているのか握りしめているのか、抱き枕代わりにされた。
「おい?」
「しばらくこのまんまで……そしたら、明日には戻っから」
甘えているのか、そう言われて俺は断れなかった。
・
・
あれからどれくらい時間が過ぎたのだろう。辺りは暗く、街灯がつき始めていた。俺の腕はずっと布団の中でアスカに奪われて、俺はあれから身動きひとつ出来なかった。
「そろそろ帰んないと」
「やだ」
「アスカ、家の人が心配する」
「泊まってきゃいい」
こんなに子供なアスカは初めてだ。それに泊まってけなんて……
「そんな急に」
「昔もあったろ。ベッドも一緒に使えばいいし、寝巻きだって俺の着ればいい」
昔って言っても何年前だよ……。でも何を言ってもアスカの意思は曲がらなそうだしな。
「わかったよ、アスカのお母さんに伝えないと…だから一旦さ…」
「いい。伝えなくてもいーだろ。後で言えば」
頑固として離そうとしないアスカ。ここまでくるともう諦めもつくな。
「そうかもしれないけど…」
「離れたら殺す」
「はぁ?」
そのままアスカは黙ってしまった。俺もどうしたらいいかわからず、このままにすることにした。
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