第11話 トルコ料理の味

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 最初に葉乃子がアイのスカーフに感じていたそれと紙一重だ。  ――トルコはそんなに厳しいイスラーム国家じゃないんだ。むしろ、アタテュルク――最初のトルコの大統領――はトルコからイスラームを排除しようとしたくらいで、アラブ諸国からしたらぜんぜんゆるゆるなんだけど。でも、ヨーロッパの人たちにはわかんないんだよね。ムスリムと見たらみんな一緒くた!  アイは苦笑している。明るく話せる話題ではない。当たり前だ。生まれた国で判断されて差別を受けるなど、悲しくならない人間などいない。  ――でも、大事にスカーフ巻いてたんだね。  ――あ、これ、ファッションみたいなものなの。なんかこう、こっちに来てから急に民族意識に目覚めちゃって。向こうにいた時はこんなにちゃんとはやってなかったわ。って言ってもいまだにナンチャッテなのはナンチャッテよ。だからもしはのちゃんが厳しい礼拝とか断食とかをイメージしてるんだったら誤解だからね。  何も言えなくて押し黙った。申し訳ない。  ――はのちゃんもこっちに来てからキモノ着たい! とか思うことない?  ――言われてみればなくもないかも。向こうでも花火大会には浴衣着てたけど、あれが恋しくなるよ。  ――そんな感じ。普段の生活で自分がムスリムだなんて意識することはないよ。  ――そうだよね、私も仏教がどうとか神道がどうとかあんまり考えたことないな。  ――仏教といえば、日本人は夏にボン・フェスティバルをしたりニューイヤー・イブにお寺に行ったりするでしょ? 私たちも、金曜日にはなんとなくモスクに行かなきゃと思うのよ。  ――そんなもんなんだ……。  アイが教えてくれて助かった。危うく自分も他のムスリムを傷つけてしまうところだった。無知であるということは恐ろしいことだ。知らないということを認めて初めて築ける関係がある。  そして、そう思えば思うほど、アイは強くてかっこいい女性だな、と思う。彼女は自分たちのアイデンティティについてちゃんと説明してくれた。何もわかっていない、それこそ一歩間違えれば差別をしていたかもしれない葉乃子に対して、だ。  優しい。  また涙が出てきそうになってしまった。 「ピスタチオたべる? いっぱいあるよ」 「やったー! いただきます」
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