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第12話 きみを独占したかった
アイに勇気づけられた。
葉乃子はここのところずっと抱えていたもやもやを駿に聞いてもらうことにした。
迷惑をかけるかも、ではない。ここで遠慮していたらきっと葉乃子はずっとつらいままだ。そうしたらもっとひどい迷惑をかけることになるかもしれない。
愛しているからこそ、この先もずっと一緒にいたいからこそ、ここで引いてはいけないのだ。
何の疑念も抱きたくない。
彼は葉乃子のすべてを尊重してくれていると信じたい。
だからこそ、不満も包み隠さず説明するべきだ。
ただし、あくまで落ち着いて。ここでぶちまけて泣き喚くのではなく、冷静に。
紙に今まで嫌だったことを全部書き出す。
スーパーで恥ずかしい思いをしたこと、仁枝やその友人たちとうまくやり取りできなかったこと、ひとりで鉄道やバスに乗れず活動範囲が広がらないこと、独学では英語もドイツ語も進まない、学校に通いたいのに通えない、日中孤独、そして仁枝やアイに駿が葉乃子に何も言わず準備不足の状態で連れてきたと言われてしまったこと――これを話すのには勇気が必要――最後に、えっちしたい、と書いてこれはぐちゃぐちゃと塗り潰した。それは言わなくていいやつ。いや言ったほうがいいのかも? 新婚数ヵ月でなんということだ。
深呼吸をして待つこと数時間、午後六時が近づいてきた。
玄関のドアの鍵が外側から開けられる音が聞こえてくる。
いても立ってもいられず、葉乃子は玄関に飛び出していった。
「ただい――」
勢い余って抱き着く。
「うわっ」
駿がのけ反る。
すぐにもとに戻って、葉乃子の背中を撫でてくれる。
「どうしたの? 何かあったの?」
「あった! すごいあった! もうぱんぱんだよ!」
叫ぶようにそう言ってから、葉乃子は、自分はたくましいやつだな、と思った。
ついさっきまで思い悩んでいたのが嘘みたいだ。紙に書き出すだけでこんなに整理ができるとは思っていなかった。
いや、さかのぼればアイが話を聞いてくれたことでここまで考えられたのだから彼女の功績だ、ありがたい。
さらにさかのぼれば、だ。
そもそも、駿は自分にとってもっとも話しやすい相手で、何があっても、どんな話でも聞いてくれると信じていたから結婚したのではないか。
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