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「なんでそんなこと心配するんだー! 何回駿ちゃんのこと好きって言ったと思ってるんだ! バカ! バカバカ!」
ちょっと、信頼されていなかったのか、と思ってしまうのも悲しい。こんなことならもっと愛情を注いでおくべきだった。葉乃子としては全力で愛しているつもりだったが、足りなかったようだ。
「で、もう一個は?」
駿が言いにくそうにする。
「なによ、ここまで来たら言っちゃいなさいよ」
「恥ずかしいよ」
「その羞恥心は私のここのところの苦悩や葛藤とどっちが大きいと思う?」
「わかりました、ごめんなさい」
また、溜息をついた。
「家の中に閉じ込めておけないかな、と思って」
葉乃子の時間が一瞬止まった。
「右も左もわからないままだったら、誰のところにも行かないかな、と思って。頼りにできる人が僕しかいない状況に追い詰めておいたら、もっと甘えてきてくれるかな、と」
唖然としてしまった。
「ごめん。僕以外の人間と交流してほしくなかったんだ」
いろんな感情がぶわっと込み上げてきてはぐちゃぐちゃに混ざった。
悲しい。
ここに来てまで駿より誰かほかの人を優先するかもしれないと疑われてしまうのがとてつもなくつらい。自分の愛情がそこまで信用されていなかったのか、と思うと泣き喚きたくなる。
しかも、彼はそれで葉乃子が家から出られなくなるところまで織り込み済みだったのだ。葉乃子が孤独に陥るかもしれない、というのをわかった上でそんなことを考えていたのだ。
悔しい。
同時に愛しい。
そこまで好きなのか、と思うと胸が苦しくなる。誰にも奪われたくなくて、独占欲でめちゃくちゃになって、とても理性的とは思えない判断をしてしまうほど葉乃子を愛しているのか。
言いにくそうにしていた、今問い詰めるまで言わなかった、というのは、彼はそれが葉乃子のためにはならないということを理解していたからだろう。
本当はもっとちゃんと葉乃子の人格を尊重しなければならないという気持ちがある。それでも押しつけの愛情を押し通したいと思うほどに狂ってしまったわけだ。
「がっかりしたでしょう」
彼が苦笑した。
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