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第13話 ロバーツさんちの事情
十一月ももうすぐ終わろうという頃、由紀子にシュトーレンを作らないかと言われた。
集合日時は金曜日の午後三時、由紀子の学校が終わって帰宅してからである。
人に構ってほしくてたまらない葉乃子は朝からそわそわしていた。出がけの駿に「楽しそうだね」と苦笑されたくらいだ。
楽しみで楽しみでたまらない。由紀子は忙しくてなかなか会えないのである。ドイツに移住して十年以上になる大先輩の話をゆっくり聞けるというのは心強い。
約束の時間の五分前、一軒家の澤下家に到着すると、ちょうどアイも到着したところだった。葉乃子は数日ぶりのアイとの再会を喜び――ぶっちゃけたところ三日おきくらいに会って遊んでいるがそれはさておき――ふたりでインターホンを鳴らした。
「いらっしゃーい!」
由紀子が爽やかな笑顔にシンプルなセーターとチノパンで出迎えてくれた。ほっとした。
まずは三時のおやつである。奥様方のおしゃべり大会にお茶と茶菓子は欠かせない。三人はこれからパンを焼くというのに張り切って紅茶とクッキーを味わった。
「今日は三人ですか?」
アイが尋ねると、由紀子は「そうよ」と答えた。
アイの日本語能力は日々めざましく進歩している。葉乃子のドイツ語能力とは比べ物にならない。もはや葉乃子が教えるのはこまごました単語くらいだ。アイと日本語で意思疎通するのに困ることはなくなった。
一方葉乃子は無事くだんのドイツ語コースに通えることになったが、入学は三月になってしまった。中途半端な時期に準備を始めたので仕方がない。一応、毎日少しずつ自分で勉強したり駿に教わったりして、なんとか進んでいる。とりあえずひとりで大学に通える状況になっただけヨシとしたい。
「こういう時、仁枝さんが出てきそうな気がしたんですけどね」
アイに言われて、葉乃子ははっとした。
確かに仁枝はこういう会合が好きそうだ。彼女はとにかく人を集めて華やかに過ごすことが好きなのだ。
今日も幼稚園のママ友だという取り巻きたちと『サロン』を開いて優雅にやっているのだろうか。
どうも違うらしい。
由紀子が首を横に振った。
「それが、今、ロバーツ家は大荒れで大変らしいのよ」
「家が、ですか?」
「離婚するしないで揉めてるんだと思うわ」
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