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「えっ」
驚いた。仁枝は夫のダニエル・ロバーツ氏と結婚したことに誇りをもっていた――もっといえば、鼻にかけていた――のだ。彼女は『国際結婚』をした自分が大好きで、ロンドンで彼と出会ったことをさんざん自慢していたのである。
「なんでまた、そんな」
いつもは気のいい由紀子が、珍しく意地悪く笑った。
「ロバーツさん、浮気してたんだって」
葉乃子は目を真ん丸にした。アイも隣で「あら」と呟いていた。
「ウワキは、奥さん以外の女性とお付き合いしているということですよね?」
「そうなのよ」
由紀子がティーカップに口をつけ、一口分飲んでから離す。
「どうやらすごく長い間こちらの中国人の女の子と不倫してたみたいよ。どれくらいの期間かは知らないけど、旦那からのまた聞きだから」
「ひょえー! あの気の強い仁枝さんを片手にすごいですね。いや、だからかも? 尻に敷かれていたのかな」
「ううん、ロバーツさん、アジア人が好きみたい。最近来た韓国人の女の子にも手を出そうとして、その子がセクハラで訴えたんですって」
なんと、そんな人もこの世の中には存在するのか。想像もつかない世界だった。
「で、職場でそんな話をするとは何事か、って課長が怒ったらしい。セクハラのコンプライアンス違反で降格か左遷か。そういうところ、なあなあにはしないから」
「そんな環境でよくやりましたね」
「でも、いるのよ、たまに。特定の人種に興奮する変態が。特に日本人はおとなしいと思われていて人気が高いって聞いたわ。裏返せば日本人の女の子が自己主張しなさすぎだと私は思うんだけど」
あまりの不快感に、葉乃子は思わず「やだ、ありえん」と呟いてしまった。アイも「気持ちが悪いですね……」と漏らしている。由紀子がまた首を横に振る。
「あの仁枝さんが自己主張しないとは思えないんですけどね」
「でもロバーツさんとどんなやり取りしてたのか正確なところはわからないじゃない? 彼女案外尽くす女性だったのかも。彼女が何をどこまで知っていたのかは私たちにはわからないものよ。ただ今週ロバーツさんの浮気が新人ちゃんのパワーで明らかになっちゃったということしか」
そこで一回、彼女は「はー」と声を出しながら息を吐いた。
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