23人が本棚に入れています
本棚に追加
「確かにロバーツさんはやってはいけないことをしたけど、日本人にも結構いるからね、金髪碧眼の男と結婚したいからってこっちに来るあんぽんたん。それもひとりふたりじゃない。はのちゃんとアイちゃんはもう結婚してるから関係ないけど、街中でひとりでふらふらしてる日本人の女の子に出会ったらちょっと注意して」
「そんな世界が……」
しかしまったくわからなくもない。葉乃子も最初国際結婚と聞いてちょっとおしゃれだと思ってしまったのだ。
他の誰でもなく仁枝自身がそう思っていたのかもしれない。金髪碧眼の男と出会いたくて渡欧する女性のように、彼女も英国紳士にたぶらかされてしまったのかもしれない。夫をアクセサリーにしていたのかもしれない。そして夫のほうも妻である仁枝をアクセサリーだと思っていたということだ。
「プライドの高い人だから直接相談してきたわけじゃないんだわ。旦那の話だし、あと、日本人学校のママさんからね。こどもが複数いて、上の子が学校に来ていて下の子が幼稚園に通っている、なんてこともあるわけ。本当に狭い社会よ、日本人社会」
「こわいですね」
葉乃子も自分の腕をさすった。
アイは葉乃子よりちょっと強気だ。
「少し、ざまあみろ、というところありますね。仁枝さん、すごくえらそうでしたね」
一度葉乃子も頷いてしまった。由紀子も「そうねえ」と一回だけ相槌を打った。
「情報をくれたそのママさんが言うには、仁枝さんのお子さん、今週一回も登園してないんだってさ」
それを聞くと、ちょっと考えてしまう。
「仁枝さん、日本に帰るんでしょうか」
ティーカップの縁をなぞる。
「仁枝さんはともかく、お子さんが転園、引っ越し、というのはあんまりいい話じゃないですね。無理して夫婦生活を続けたところで情操教育に悪いのはわかってるけど、急に環境が変わるのも、なんだかな。不倫というおとなの事情に振り回すことになっちゃったわけですよね」
今度こそ、由紀子は大きく頷いた。
「難しいわね。環境を変えるならさっさと変えちゃうのもアリだとは思うのよ、今三歳でしょ? 大きくなったら忘れてくれるかもだし」
「まあ、はい」
最初のコメントを投稿しよう!