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「でも、はのちゃんの言うとおり。とりあえず当面の間、夫婦の話し合いが済んで決着がつくまでは、私が坊やを預かろうか、って提案したんだけど、仁枝さんからは音沙汰なし。彼女がヘルプを出してくれないことには外野にはどうにもならない」
葉乃子自身、日本からこっちに引っ越してきた当初はいろんな壁にぶつかってパニック状態だった。そういう状況に幼子を置きたくないという悲しみと、幼子だからこそ状況の変化に耐えられるのではないかという期待と。
ただ、それらはすべて、由紀子の言うとおり、何もかも外野の感想だ。
「仁枝さん、専業主婦だったでしょ」
紅茶が冷めてしまう。
「いまだに母子家庭がしんどい思いをするはめになる日本よりいろんな家族の形にポジティブなヨーロッパで暮らすほうがいくらかマシだと思う。けど、こっちで就職活動か。彼女のことだから友達のコネで仕事に就くとも思えないし」
「あるいはイギリスに帰るとか?」
「いずれにしても私たちには相談してこないでしょ」
今後葉乃子やアイの生活に仁枝が干渉しないようになってくれるのはありがたい。葉乃子は彼女と距離を置きたいと思っていたし、事実彼女が来る集まりには参加を控えていた。
だが、こんな形で突然別れを告げるのも複雑な気持ちだ。
いずれにせよ、こどもにしわ寄せがいかないといいのだが。
「なんとかなることを遠くから祈りましょう」
「はい……」
「暗い空気になっちゃったわね、ロバーツさんのせいで」
由紀子が立ち上がる。
「さて、シュトーレン作りを始めましょ。ついでにあなたたちの話を聞かせてちょうだいよ、私新婚さんののろけ聞くの大好き」
「……はーい」
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