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第14話 新婚旅行ではなく、生活するために
帰宅した駿にロバーツ家のごたごたを説明したら、彼は頷いた。
「その話、今日職場で大爆発したからはのちゃんに話そうかなと思ってたんだよ」
「知ってたの?」
「ロバーツさんが欠勤してたこともあってそれとなく噂が広まってはいたけど、しょせん噂は噂だし、浮気相手たちが直接僕らに説明してくれたわけじゃないから、あえて触れなかったんだよね」
由紀子が特別情報通だったのだろうか。由紀子の情報網が恐ろしい。
「でも、今日付けで退職だってさ」
「なんと、すごい展開になってた」
「アンゲラがめちゃくちゃに怒ってたからね。もともとそういうの厳しい風土はあるけど、彼女は特に」
アンゲラ、というのは駿たちの上司で日本で言うところの課長職にある女性である。最初のバーベキューパーティにもいて、葉乃子も挨拶した。金髪の、肝っ玉母ちゃんという言葉がよく似合う女性だった。
「こりゃ離婚するなぁ。あの仁枝さんが無職の男と一緒に暮らすとは思えないもん」
「仁枝さん英語できるしヨーロッパ暮らし長いから、思い切っちゃう気がするね」
ふたりで食卓を囲む。駿の実家からはるばる船便で届いた米を鍋で炊いたのだ。いつか炊飯器を買いに行きたい、由紀子の話によると大きなデパートには日本製の家電が売っているとのことである。
「まあ、いいんじゃない? それはそれで彼女の人生でしょう」
「そうだね、私も浮気した人と一緒に暮らすなんて耐えられないもんな」
遠回しに、浮気したら離婚する、と言ったつもりだったが、駿は暗い笑顔でこんな返事をした。
「はのちゃんが浮気したら殺して埋めるから。もう僕以外の誰とも会えないように」
レベルが違った。
話を元に戻す。
「でもさ、私、こどもが可哀想だな、と思っちゃって。親が離婚してものびのび育ってほしいな、と思う」
「制度的、経済的には暮らせると思うけど、仁枝さんの精神状態次第だよね」
「それなんだよー! こどもに当たりませんようにと祈るしかない!」
「ロバーツさんもイギリスに帰るんじゃないかという噂だしな。仁枝さんがこの先日本に帰ったらもう大惨事だね」
葉乃子は頷いたが――次の駿の言葉に、ちょっと驚いてしまった。
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