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駅員の声が辺りに響く。
列車は長い旅を終え、終着駅へと辿り着く。
その声を目覚ましに、少女はゆっくり目を開いて、狼狽した。
「やってしまった!!」
少女は大きな後悔の念にかられ、現状に驚愕する。
あたたかな日差しに心誘われ、心地よさに身を預けたのが失敗だった。
端的に言おう。寝過ごしたのだ。降りるべき駅は遙か昔。列車はとんとんとその歩みを進め、少女を律儀に終着駅へと運んでしまった。
――戻らなきゃ。
悔恨に浸るよりも、すべきことがある。少女はひたすらに戻りの列車をさがす。
今の彼女の持ち金ではこの駅で降りることはできても、その先の生活をしていくことが出来ないのだ。そんな状態で新天地に降り立ったとて、悲惨な結末が待ち受けていることは容易に想像できる。
ゆえに少女は素早く鞄を持ち直し、来た道をたどる列車へと急ぐ。
しかし。
「首都方面の列車? そんなのもうないよ。ここは田舎町だからねぇ。一日の本数は限られてる。ちなみに、今出発した列車が本日最後の列車。残念だったね。」
目の前が暗くなる。哀れむような駅員の声がどこか遠くに聞こえる。
あざ笑うかのごとく汽笛が鳴り、列車は揚々と少女を置き去りに走り出していった。
この町で降りる。
少女に与えられた選択肢はそれだけだった。
列車代を払って駅を後にする。財布の中身はすっかり軽くなってしまった。家出生活を開始し、ものの数時間で一文無しだ。しかもその理由がうっかり睡魔に負けてしまったことときた。
自分の愚かさに最早笑う気力も起きない。笑う暇があるならば、この状況を打開するすべを考えなければ。
現状、今の所持金では今晩の宿を探すことも難しい。それどころか、目の前の空腹感を満たす術もないに等しい。絶体絶命八方塞がり万事休す。これからどうしよう。少女は途方に暮れる。
すれ違う人々は皆知らない顔。当たり前のことだが、ここに自分を知るものはいない。手にしたものは自由。しかし、それに伴う対価として、言いようのない不安が足下に絡まり付く。先ほどまで希望に胸を膨らませていたというのに。我ながら滑稽だ。
わだかまる思いを振り切るように、少女はふるふると首を横へと振った。
いつまでも狼狽えてなどいられない。ここで立ち止まっていても、状況は変わらない。歩き出さなければ、なにも始まらないのだ。
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