20.暁に綴じたファンタジア

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「遊び場にしていただけですけどね。それに、周りの大人たちもこの場所を分かっていましたから。秘密というのは名ばかりでしたよ。ああまたあそこにいるのか、という感じに。食事の時間には迎えが来ましたから」 「公認の秘密基地ってことか……矛盾を感じるね」 「ですね」  くすりと笑うセージの口調はいつも以上に優しい。立ちこめた埃っぽさなど気にすることなく、彼はゆっくりと息を吸った。懐かしさを拾い集めるかのように。呼び起こされる記憶の一つ一つを丁寧に愛おしむように。   「ありがとうございました。ミララ。さすがに一人ではここに降りて来られなかったので。連れてきていただけて助かりました」  柔らかに息を吐くとセージは姿勢を正し、さっと踵を返してしまう。 「え、もう戻っちゃうの?」 「はい。もう十分です。ミララも予定があるでしょう?」  ここに来てからそれほど時間も経っていない。もう少しゆっくりしても良いのでは。そうミララは思うのだが、セージはやけにあっさりとしている。  本当に十分なのだろうか。この後はこれといった予定はないし、家事仕事も大方終わってこの後は少しのんびりしようと思っていたところだ。  自分を気遣っての提案だとしたらその必要はない。せっかく久しぶりに訪れたのだから、思い出に浸る時間があっても良いはずだ。  ミララは引き留めるようにセージの腕を掴む。そして、わき上がってきたある願いを口にすることにした。 「――ねえ、私もお願いしても良いかな?」 「なんでしょう?」  引き留められたのが意外だったのか、セージはすこし戸惑っているようだ。 「二人の話、聞かせてほしいの」 「僕とオリファの話……ですか?」  セージの背筋がわずかに伸びる。強ばった表情からは驚きと躊躇いが見えたような気がした。それがまだ傷の癒えきらない自分への配慮からきているのだと、ミララは理解して。払拭するように、力強く告げた。 「うん、お願い。ここで皆の写真を見つけたときから気になってたんだ。二人の昔の話。どんなことがあったのだろうって。だから、ね?」  真っ直ぐにセージを見つめる。彼は少しだけ迷い、思案して、それから頷いた。 「わかりました。少々長くなりますが、よろしいでしょうか?」 「大丈夫」  晴れやかなミララの声。ならば、とセージは微笑んで。 「そうですね。どこから話しましょうか。……――そうだ。僕は最初、嫌いだったんですよ。オリファのことが」 「嘘」  いきなり出てきた意外な言葉にミララの目が丸くなる。 「ふふ、本当です」  楽しげに綻んだ口元が、緩やかに開かれる。かつての記憶を紐解いて、よどみなく声に乗せていく。 「あれは、いまからもう十年も前でしょうか。父がある日、弟子と称して連れてきたのがオリファでした――」
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