1.放浪少女とピアノソナタ

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 少女は町並みを見渡すと、一歩を踏み出す。  終点の田舎町。そのわりには小綺麗な町だった。のどかで落ち着いた雰囲気の漂う町並みだが、行き交う人も少なくはないし、真白に塗られた煉瓦を一定の間隔で敷き詰めて整備された道は美しくもある。  新生活を始める新しい町。普通であれば、来る未来への期待に胸を踊らせるのだろうが、一文無しであてもないこの状況では明日への希望どころか一寸先の光さえも見いだせない。  傾きかけた午後の日差しに目が眩む。いつもならば気にならないその日差しが、ほんの少しうっとうしく思われる。  もとはといえば自業自得なのでそう文句は言えないが、こんな時間に列車がなくなるとはどういうことだ。少女の感覚的に、電車が終わる時間にしては速すぎる。田舎なので仕方がないといってしまえばそうだが、行き場のない憤りを感じる。どうしようもないことだということは分かっていても、焦りや不安は心を苛む。  ――とりあえず、歩いてみよう。  運がよければ親切な人に泊めてもらえるかもしれない。なんとしても、新生活早々の野宿は避けたい。日が沈む前になんとかこの状況を打破しなくては。  少女は歩みを進める。  少しだけ、いつもよりも速いテンポが煉瓦道をゆく。     ◆  町はいつもと変わらぬ日常を送る。  ふらりと現れた少女のことなど、誰も気に留めはしてくれなかった。  少女はしばらく町の中を探索したが、現実は理想ほど甘くはない。町の人は余所者に関心など抱かないようで、声をかけることも出来ずすれ違っていく。町に唯一の宿泊施設は、金策尽きた少女がそのドアを叩くには敷居が高すぎた。  小さな田舎町は、少女の足でもあっという間に一周出来てしまう程だった。それゆえ、抱いていた淡い期待が砕かれるのも時間はかからなかった。 「これはちょっと……本当に困ったかも」  町中歩き回ったが、過ぎ去るのは時間ばかりで状況は何一つ好転しない。  日はその経過とともに緩やかに傾き、東の空はほんのり紫色に染まっていた。このまま夕暮れを迎えてしまえば、本当に野宿という選択をせざるを得なくなる。今日を野宿でしのげたとしても、この先のことを考えると少女の表情は青ざめる。 「……というか、ここはどこだろう」
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