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わたしたちはまた二人だけになった。
なんてことはない、昔あった形に戻っただけ。かつてあれほど恋しがった、誰にも邪魔されることない二人だけの平穏。それを手にできたというのに、どうしようもなく途方に暮れていた。家族という存在を、あたたかなものを知ってしまった私たちにとって、それはひどく耐え難い痛みを伴う喪失だった。
もしかしたら、今見ているのは悪い夢で。カーテンの隙間から差し込むやわらかな日差しに目を覚ませば、何食わぬ顔で盗賊団の皆がそこにいて。ああなんだ良かったと、笑って日常に戻れるのではないか――そんな幻想を何度も抱いて。それもいつしか諦めに塗り潰され。ただ目の前に漠然と広がる空虚な現実を思い知る。
気づいたら、外の様相はすっかり変わっていた。巡る季節は冬を迎え、降り積もる白が世界を覆い尽くしている。立ちこめた厚い雲は太陽を隠して久しい。そこに永久に閉ざされたような寒さは、二人だけの世界にとってやけに堪えた。
ルバートが残してくれていたお金と、家の中にあった備蓄で今はどうにか生きていくことができている。しかしそれにも限りがある。食料も、金もいつかは底を尽きる。
いつまでも立ち止まってばかりではいられないのだ。進まなければ。これから先は、わたし達二人で生きていかなければならないのだから。そうは思っても、踏み込むほどの力が入らない。どれだけ前を向こうとしても、見果てぬ闇だけが広がっている。立ちこめた不安が呼吸の度に染み込んで、身心を重く蝕んでいくようだ。
それでも息ができるのはソニティアがいたからだ。ただ一つ残った温もり。互いを暖めるように傍らに寄り添いあう、愛しい体温。わたしのもう一つの心臓。ソニティアを守る。その思いだけが、暗闇の中にともる小さな光だった。この手はけして離さない。彼だけは絶対に失わない。なにがあっても守り抜く。
すべてを飲み込む闇の前ではあまりに小さい。しかしその光だけが真っ暗闇の世界で、わたしを支えてくれていた。
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