29人が本棚に入れています
本棚に追加
常日頃肌身離さず持ち歩いていた手帳だ。てっきり今も彼とともにあると思っていたのだが、ここに残していたとは。そう思うとともに、漠然と感じていた予感が、はっきりとした確信に変わる。間違いない。ラグはわたしに何かを伝えようとしている。そしてそれは、「ここ」に記されている。
手帳を持つ手がふるえた。掌ににじんだ汗を服で拭って、意を決して表紙を開く。中はびっしりと記された文字によって真っ黒に染まっていた。ぱらぱらと数枚めくり、記された文字を読む。書いてあるのはどこか遠い町の知らない出来事。おそらくは彼が見聞きしたのであろう真実たち。近くの農場で羊の赤ちゃんが産まれる。といったものから、そこそこ大きな都市の市長の闇取引の証拠など……彼がこれまで記事として書き上げてきた記録だ。どれも興味を引く事柄ではあったが、今はさほど重要とは思えない。
さらにページを送り、付箋紙が貼ってあるページで手を止める。
あの日のことが記されていた。
心臓が跳ねた。一拍、呼吸が止まる。掌がさらに大きくふるえた。揺らぐ心を落ち着かせるように、目を閉じて呼吸を繰り返す。
あの日――ルバートの命を奪った事故。あまり思い出したい記憶ではない。時とともに少しずつ現実を受け入れられるようにはなった。けれど、やはり。真正面から向き合うことは、まだ恐ろしかった。
だが、ここにラグが伝えたい「何か」が記されているのだとしたら。目を伏せていてはいられない。しっかりと見つめて、受け止めなくてはならない。
再び手帳に目をやって、震える手つきでページをめくる。
そこに記されていたのはあの日起きた事故のこと。
そして、ラグが必死で調べ上げ突き止めた真実の欠片だった。
最初のコメントを投稿しよう!