29人が本棚に入れています
本棚に追加
事故現場は市場の開かれていた中央広場へと抜ける道。馬車が通れないことはないが、道路幅は狭く、かろうじて一台が通れる程度だ。通行人がいればその幅がさらにぎりぎり、下手をすれば接触事故も起こりうる。車両が通ることを前提としていない道は非常に狭く、路面の凹凸も激しい。事故の現場となった場所は勾配のある下り坂なうえ、大きなカーブがある。速度を大きく超過し、重い積み荷を運び、かつタイヤのねじが緩んでいる、そんな車両が悪路の負荷に耐えられるはずもない。
事故が起きた時間は午前9時10分頃。市場を撤収し帰宅するルバートが丁度通りがかったときだった。市場の開催時間は決まっており、毎回朝6時に開かれ、9時には終了する。ルバートは時間いっぱい広場におり、市場が終わると共に店を片づけ、事故の起きたあの道を通って家へと帰る。そのため市場の朝は、彼女はほぼ同じ時間にあの場所を通ることになる。
仮に、マーブルの事故が意図的に引き起こされたものだったとして、あの日ルバートがそこに居合わせたのは単なる偶然でしかない。事故が起きたあの日も、彼女はいつもと変わらぬ行動をとっていた。そこにマーブルの乗った馬車が突っ込んできたというのはやはり不運だったとしか言いようがないのか。
調査を進める内に、気になる情報を得た。
あの日、事故現場となった場所にはとある露店が開かれていたのだという。
それ自体は珍しいことではない。市場の日には会場以外でも町の至る所でこういった露店が開かれる。しかしそのほとんどが人通りの多い、会場に面した大通りに軒を連ねており、事故現場のような奥まった住宅沿いの小道で開かれているのはまれであった。
開かれていたのは子供向けの店で、玩具や絵本、飴などが売られていた。事故当日も近所にすむ子供たちが何人か集まっていたそうだ。あの日はソニティアも一緒だった。帰宅途中目に留まって、そのまま足を止めた可能性は高い。そうでなくても、ルバートのことだ。子供達が楽しそうにしている様子を見て、歩幅をゆるめることもあるだろう。そんなところに荷馬車が突っ込んできたのだとしたら……ルバートは身を挺して、子供達を守ろうとするに決まっている。そして実際、彼女はそうした。
現場となった場所は坂道の途中であり、露店を開くにはあまりに不向きだった。なぜ、店主はこんな場所で露店を開いていたのか。そもそも、人通りの少ない道をわざわざ選ぶメリットはない。子供向けの露店を開くのならばやはり、親子連れでにぎわう会場付近を選んだ方が収益を見込めるはずだ。
最初のコメントを投稿しよう!