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一代で音楽家としての確固たる地位を築き、さらには多くの財と名声を得た。それからも彼は富に溺れることなく、財産の一部を孤児院に寄付したり、奉仕活動にも自ら精力的に力を注いだ。与えられた天賦の才に驕ることなく日々研鑽を重ね続ける謙虚な姿勢も相まって、彼は人格者として多くの人々から支持されている。その才能は彼の子供たちにも受け継がれ、バルフリーディア家は現在の地位を確立した。ここまでは、誰もが知る話。
「ルバートの死の真相を追いかけて、ラグはバルフリーディアにたどり着いた。直接関わった記憶はなかったけれど、その名には微かに覚えがあった。そして思い出したの。それはまだ、わたしたちが盗賊活動をしていた頃。ラグが持ってきたターゲット候補の中にあったのがバルフリーディアの名であったことを」
「つまり、なんだ。かつて盗みを働いた、その時に恨みを買ったということか?」
イクシードの言葉にミレイは首を振る。
「それは違う。わたしたちはバルフリーディアから盗んではいないの。盗賊団が狙っていたのは悪い金持ちだけ。ラグが集めた悪い噂のある金持ちの情報のリストをもとにルバートが下調べをして、きっちり情報を精査した上で本当に悪い人間だけをターゲットにしていた。バルフリーディアの名前はその、悪い噂のある金持ちの候補の中にあった。けれど、ルバートが調べた結果、リストからは外された。ターゲットにはならなかったの。だから、何もしていないのよ。恨みを買う理由がない」
「じゃあなぜ……」
イクシードが眉間を深める。恨みを買った報復として、というのならば理由としても納得ができる。しかしそうでないのだとしたら謎は深まるばかりだ。
「恨みを買ったかどうかなんて、関係なかったの。もっと単純なこと。わたしたちは気付くべきだった。このころから、ルバートの様子が変わっていったんだということに」
ミレイは俯き表情を歪ませる。垂れた前髪の陰から見えるのは悔恨であった。
「この時、わたしたちのターゲットはバルフリーディアではなく他の資産家となった。でも、そのヤマが終わって以降、盗賊団の風向きが変わっていった」
そうだね。その隣に寄り添ってソニティアが頷く。
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