29人が本棚に入れています
本棚に追加
「いつもだったら一つの拠点にしばらくとどまって、何件か他のターゲットを狙ったりもしてたんだけど。その町では、その一件だけで終わりだった。すぐに荷物をまとめて、他の町に移ったよね。それからは前に比べて拠点の移り変わりも多くなったし、みんなで行ってた仕事も、ルバート一人だけで片づけちゃうなんてことが増えた。そしてなにより一番大きいのは……盗賊団の解散だ。みんな、離ればなれになって、ルバートは義賊をやめちゃった」
「あの時わたしたちはルバートの身に何かがあっただなんて思いもしなかった。でも、今思えば、活動を控えめにしていったことも、盗賊団を解散して子分たちを遠ざけたことも、知らない町で密やかに、真っ当に生き直そうとしていたことも。全部ちゃんと理由があった。ラグはそのことを何となく気付いていたんだと思う。だからこそ。この事実にたどり着いた。全てはあの時、下調べのためにルバートはバルフリーディアに近づいたこと。それが間違いだった」
当時、今以上に幼い子供であった彼女たちにできたこと。おそらくはきっと、悲しいほどにささやかなことで。大きな嵐の前には無に等しかったのかもしれない。しかし、それでも、あの時少しでも変化に気づけていたのなら。何かやれていたのなら、未来は変わっていたのかもしれない。そんな、どうしようもない「もしも」に苛まれる苦しみはミララの傷とも共鳴した。
「ルバートさんの身に、一体なにがあったんだ?」
「バルフリーディアの抱えるある秘密。それをルバートは知ってしまった。そしてその秘密こそ、ルバートを死に追いやった闇の正体。バルフリーディアはただの音楽家なんかじゃない。そんなものは表向きの顔にすぎない。その裏で彼らは、多くの人の命を手に掛けている、人殺しなの」
「――――」
誰もが息を呑み、言葉を失う。
今まで自分の立っていた大地の底が突如として抜けて、投げ出された身体は果てなき虚へと落ちてゆく。そんな心地だった。肌を刺すように突き上げる風は湿度と冷気の混じり合った死の零度。落ちたら最期、もう二度と戻れぬ深淵にちっぽけな身体ごと、世界のすべてが呑まれていくようだ。
最初のコメントを投稿しよう!