え・ん・そ・く ⤴︎︎ 〜兆しノ号〜

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え・ん・そ・く ⤴︎︎ 〜兆しノ号〜

「曇りだ!!」 「徒歩ッス!!」 「遠足やぁあ!!!」 「ちょっと、恥ずかしいから向こう行ってよ」 4人は、テンションが上がっている。何故かって?遠足だからだ!!良は少し嫌そうだが、これでもすごくテンションが高い。曇りで少し微妙な遠足だが楽しい。 「塊になって動けよー!委員長は1番後ろで見張れー」 「分かりましたー!」 先生に言われた女子委員長はそそくさと後ろに回って行く。 林道高校では1年、2年、3年と同じところに遠足へ行く。各学年、交流を深めるためだ。学年ごとに3クラスあり、1組、2組、3組と、順番に並んで、先頭は3年生である。これで仲が深まるか?と言ったらどうかは分からないが、後からレクレーションがあるから大丈夫だろうというのが先生の見解だ。 「これってどこに向かってんッスか?」 「聞いてなかったんか?林湖(りんこ)ぐるっと回るんやけど、途中で山登るらしいで」 「えっ、遠すぎッスよ〜」 「なぁ、菓子何持ってきた?」 「まだ食べないでよ。僕はじゃがり味のチーズ味と飴にきのこの都」 「お菓子ッスか??お菓子は〜俺もじゃがり味のサラダ味と〜シゲキットと〜あとあと!コンヤクゼリーッス!!」 「あれ上手いなー!コンヤクゼリー!!あの硬さが丁度ええ。俺はな、じゃがり味のたらこバター味に、チップスキーやろ、えーとあとなんやったかな〜...あっあれや!ドッポや!それ2箱」 「お前らまだまだだな!俺が最強の遠足菓子を見せてやる!!」 「出たで、大智の変な俺最強説。これだけはアホやとしか言えん、毎回」 「そう言っていられるのも今のうちだ!!」 京介、良は呆れているが、その横には拍手を上げて喜んでいる者がいた。陽翔だ... 「なんッスか?!なんッスか?!気になるッス!!!」 「はぁ〜バカが2人になった」 「いやまぁ聞いたろや。この茶番もすぐに終わるて」 4人は1年3組だ。この列で1番後ろにいるため騒がしくしても先生に怒られることは無い。委員長も怯えてるのか、声はかけないがこちらの観察をしているようだ。 大智がカバンの中を、ガサゴソと取り出したのは四角い箱だ。 「聞いて驚け!!俺が持ってきたのはパンドラの箱だ!!!!」 「はぁ?そんなの実在するわけないでしょ?」 「あぁ?何言ってんだよ自作だ」 「まさかの自作ッスか!!」 「で?そのパンドラの箱を自作した大智くんは何をそん中に入れとんのや?」 「京介、お前煽ってんだろ?後から欲しいって言ってもあげねぇぞ?」 「いいから、なんなんや?中は」 大智はパンドラの箱の蓋を開ける。すると、中からモクモクと白い煙が出てきた。 「えっ!これ何ッスか?煙出てきてるッスよ?!大丈夫ッスか?」 「変な毒ガスとか言わないよね?」 「そんなの出るわけねぇだろ?このパンドラの箱は冷凍庫だからな!」 「「「冷凍庫!!!」」」 驚き通り越して呆れている京介と良は、ある意味ここまで来ると天才なのでは?と考え始める。一方、そんな大智に尊敬の眼差しを向けている陽翔はすごいッス!天才ッス!!と楽しそうだ。 「だろ?天才だろ??もっと褒めろ!!」 「ハイハイ、天才(バカ)やね〜大智は冷凍庫(パンドラの箱)に何入れて来きたんや?」 「含みありすぎだろ!バカじゃねぇし!!入れてきたのは、ジャリジャリ君を2箱とキットカッツ1袋、あと、ゼリー凍らせてきた」 「逆によく持ってきたよね。そこは褒めるよ素直に」 「良が褒めるとなんかキモイな」 「貶してほしいんだったら、いつでもしてあげるけど?」 ゴゴゴゴゴッと後ろに黒いオーラを纏う良は今にも大智を殴りそうだ。 「まぁまぁ、すごいッスよね〜!これを自作って、どうやって作ったんッスか?」 「なんか、家の古いテレビ弄ってたら出来たんだよ」 「いや、工程踏まんかい!!」 「どこをどうしたらそうなるんだよ」 「マジだって!出来たんだよ!!」 「逆に怖いわ」 ギャーギャーギャーギャー騒いでいると、後ろの方から小さく、丁寧な声が聞こえてきた。 「あのー、すいません。そろそろ山に入るので離れないようにしてください」 女子委員長だ。林道高校にはクラスに男子と女子、2人の委員長がいる。男女の中立をとるためだ。よく見るとプルプルと震えている。それもそのはずだ、4人の男に目を向けられ、しかもそれが極道ときた。こっちがいじめているみたいで少し申し訳ない4人だが、今は心の中で口を揃えてこう思っている。やっぱり友達って難しい...と。だが、ここで空気を読まないのがこのバカ、陽翔だ。 「あーごめんなさいッス、大丈夫!離れないッスよ!!委員長も大変ッスよね〜、俺達のこと怖いッスか?やっぱり?極道ッスもんね」 「バッカ、お前何聞いてんだよ!当たり前だろうが!!聞きにくい言葉選んでんじゃねぇよ!」 「そうやで!そこデリケートゾーンやで!!大智(バカ)でも分かってるんやで??陽翔が分からんでどうするんや!!!」 「お前まだその含みあるのかよ!バカじゃねぇし!!やめろよ!!」 「もう、お前らうるさいよ。前田さん困ってるだろ?やめなよ。今更そんなこと言ってたらキリがないだろ?」 「えっ、名前...あの..すいません」 「待って、なんで良名前知ってんッスか?」 「当たり前だろ?委員長なんだからすぐ覚えるでしょ」 「そうやで、委員長の名前くらい覚えてるやろ。それにこの前田 響香(まえだ きょうか)さんは学年2位の成績やで?俺なんて嫌でも覚えるわ。あっ、嫌味とちゃうからな?」 「はぁ?そんなに頭いいのかよ。お前すごいな」 「きょッ恐縮です」 今だにプルプルと震えている前田さんは、卒倒しそうになっている。ここまで怯えられると流石に4人もそんなに怖いのか?と思い、少し悲しい。 「ごっごめんな、怖がらせるつもりは毛頭ないんやで?本当に、もう話しかけんし安心してや」 「はっ...はい!」 それを合図に4人は少し早めに歩き出した。少し距離が空いていたため、追いつこうと。先を見ればもう3年生は山の入口に入っている。 「「「「はぁ〜」」」」 重いため息を吐く。それだけしかしてないのに、前の生徒達は早歩きになり前へ前へと進んで遠ざかろうとする。 「案外、高校の方が辛いんやな〜」 「そうッスね〜」 「だな〜」 「はぁ〜辛気臭い」 あー、長いなぁ〜。遠足ってこんな楽しく無かったっけ?なんて、考えながらとぼとぼと歩くと、後ろからまた小さく丁寧なあの声が聞こえた。 「あっ、あの待ってください」 前田さんは少し息を切らしながら、こちらえ向かって来る。走ってきたのだろうか。 「なに?怖いのにまた話しかけるの?」 「良、意地悪言うたらあかんで?どうしたん前田さん」 「ごっごめんなさい、あんな態度、挙動不審ですよね。私、失礼なことを..」 少し目が泳いでいるが、本心のようだ。その場に踏ん張り謝る姿勢は、女性ながらにしてしっかりとしている。 「いや、いいッスよ!俺も急に話しかけたのが悪かったし、聞き方もダメだったッスから」 「大丈夫やで、誰でもあれは怖がるかもしれんし」 「そうそう、あれは陽翔が悪いから心配すんなよ」 「そうだよ、あれは陽翔が悪い」 「そう言われるとそうやな。あれは陽翔が悪いから、前田さんはなんも心配せんでええで」 「なんで全部俺なんッスか!!!!」 プンプンと怒る陽翔を3人でなだめていると、前田さんがこちらに視線を向けて大きく息を吸い込み言った。 「あっあの、私友達居なくてッ...良かったら、友達になってくれませんか!!!」 なってくれませんか...その言葉が4人の脳内を駆け巡る。思わず歩くのをやめ、その場で立ち尽くす。情報が追いついていない。なってくれませんか!!!何に?えっ今なんて言った?ぼーッと今まで、聞きなれてこなかった言葉を処理しようとするも何に?で止まる。 前田さんはその状況に青ざめ、「すいません忘れてください。調子乗ってすいませんでした」と土下座をしようとする。 「待て待て待て待て!!ストップ!ストップしろ!!」 「?????????どういうことッスか?」 「京介、今日僕命日かもしれない」 「・・・・・・・・・」 「やべぇ京介が壊れた」 4人は驚きのあまりそれぞれ頭を抱えだした。 「はっ、これはもしかしてドッキリとちゃうんか?」 「これ、ドッキリだったら親父たちのせいだろ。こういうの好きだもんな」 「それだったら悪趣味ッスよ」 「極道だから有り得るかもよ」 「「「「HAHA!HAHA!HAHA!」」」」 その瞬間4人は青ざめた。あー、それだったら嫌だ。こんなに喜んだ日はないのに。4人は中央に集まり相談し、誰が前田さんに質問しに行くかジャンケンをする。前田さんはその場で土下座をするため正座待機をしているが今の状況が全く読めてないため、少し泣きそうになっている。そんな前田さんの前に京介が冷や汗をかきながら来た。 「あの〜前田さんは、さっきなんて言うてました?友達て聞こえたんやけど、空耳かな〜なんてあはははッ...」 「京介、流石にそれキツいよ」 「うっさいわ」 間を一尺置いて、前田さんはボロッと大粒の涙を流す。 「友達になってくれませんかって言いました。ごめんなさい。出しゃばりました」 そういうと、また土下座をしようとする。 「待って待って、なんでなんで?土下座するの?」 「しなくていいッスよ!!こっちの方が土下座したいくらいッス」 「ほんまやで。前田さん、なんも謝らんくてええやん。それに泣く必要もないやん」 「えっ?嫌じゃないんですか?迷惑とか」 「いやいやいや、逆ッスよ!こっち方が迷惑じゃないッスか?嫌じゃないッスか?俺達極道ッスよ!怖くないッスか?」 そう、本題はここなのだ。4人の1番気にしていることは、極道と言う肩書きで判断されること。それだけで世間的には、悪くなると同時に白い目で見られる。相手に迷惑がかかることも。これは4人が小学校の時味わったものだ。 「確かに最初はものすごく怖かったんです。学校中で噂になった、不良グループを舎弟にした話とか..。今日の遠足で初めて話した時、怖い人だからあまり話さないで置こうとしました。でもそれは、私の周りにいた人達と同じ行動をしていることに、気づいたんです」 「周りの人達ってなんッスか?」 「私の父はある病院の院長をしているのですが、私子供の頃から勉強勉強で..頭が良くないとダメだったんです。そのせいで友達ができにくくて...近寄り難い存在に見えていたんですかね。裏では真面目ちゃんとか言われてましたけど、私にとっては褒め言葉でもなんでもなかったです。そんな周りの人達みたいに、私はあなた達を避けようとしていた自分が許せなくて。それに、去り際に寂しそうな顔をしていたから..本当にごめんなさい」 「えっ、俺達そんな顔出てたか?恥ずッ」 「ヤバいッスね、そこまでとは思ってなかったッス」 「僕達もまだまだ、練習が足りないんだよ」 「そうやな、やらかしたな」 「あの、だから友達になってくれませんか?虫が良すぎるかもしれませんが、私は自分を変えていきたいんです。あんな思いを、他の人にもさせないために..」 前田さんの瞳は、今まで彼らに向けられた他とは違う、温かみのある決意に満ちたもののように見えた。 「いや、でもよう。迷惑とかじゃないか?」 「私はそんなことで今後ヘコたりなんてしません!任せてください!!」 「なんか、俺達の方がよっぽど女々しく見えてくるッス」 「同意見や」 「僕も右に同じく」 少しだけ背中を押された4人は、次期若頭がこれじゃダメだな..なんて考えて、少し前向きに捉えることにした。『友達ができない』と嘆くのでは無く、前田さんのよう自分から歩み寄り、その人を分かって行こうと。4人は心の中でどこか諦めていたのかもしれない。どうせ怖くて近づいて来ない、友達なんてもうできない、例え言葉で『友達が欲しい』と願っていても自分から何かをしなければ何も起こらないし変わらない。 「こんな初歩的なとこを諦めとんやな〜思うと、なんや、やらかした感すごいわ」 「そうッスよね〜」 「これで次期若頭とか聞いて呆れるよね」 「ほんとバカだよな〜」 「大智にだけは言われたくないけど、今回は認めるよ」 「お前ら俺に対してちょくちょく酷いよな」 「「「気のせいや。だよ。ッス。」」」 「ぜってぇ嘘だろ!!!」 いつもの調子でまたコントをしはじめる4人は少し肩の荷が降りた気がした。その横で、この光景を見ている前田さんは終始楽しそうだ。 「ふふふっ」 「あっ、ヤバいで!!列に置いてかれてるやん。戻らな!!」 「走るの?」 「走るのしかないだろ」 「急ぐッス!」 距離的に400メートル程離れた場所に位置する、列の最後尾は山の中に入ろうとしてるところだ。そしてここは急勾配、なかなか追いつくには体力がいるだろう。だが、心做しか足取りが軽い。彼らの気持ちは、ワクワクとした未来を写し描いていた。 「おっしゃ!!競走しようぜ!」 「待って、前田さんいるんだから」 「せやで、ペース落とせ!」 「速いッスよ!」 その日、今年初めての梅雨明けとなった。燦々(さんさん)と光る快晴の空は、行く先を照らし、彼らの門出を祝うかのようだ。一歩づつ、前へ...前へと。 「前田さんもいくよ!」 「なにボケっとしてんだ?」 「前田さーん、早くッスー!!」 「どうしたんや?前田さん」 私は少しだけ心配だったのかもしれない。男の子と女の子は違うから。これも一時的なものに近いのかもと..でも、さも当たり前のように接してくれる彼らに...私はなんだか救われたのかもしれない。 「はい!今行きます!!」
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