足を止めてれば

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 京橋駅でホームへ降り、学研都市線へと続く階段へと向かう。二十二時をゆうに過ぎているにもかかわらず、ばたばたと革靴の音が木霊する。この時間まで働いている人間がこれほどいるなんて。私もその一人だけど。流石は三大都市圏だな。頭の中でそう皮肉っていると突然、くたびれた合奏のなかから、一つだけ色を持った声が私の耳に入った。 「──アサノ?」  鬱屈とした精神世界から現実へ意識が引き戻される。そのとき目の前には見知った面影を持つ男が唖然とした表情で立っていた。 「浅野……だよな?」  この顔には覚えがある。少し大人びた顔、社会人らしく整えた今風の髪型、垢抜けたスーツで見違えたけれど、間違いない。間違えるわけがない。  草加淳介──高校時代の同級生で、男女で分かれていたものの同じ陸上部に所属していて……その……正直、少し気になっていたヤツだ。結局「気になっていた」止まりで卒業してしまったが。よりにもよってそんな男と一番に再開してしまった。
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