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JRと京阪電車の京橋駅が対峙する広場に出る。地元と違い、市内というだけあって人でごった返している。会社員の酔っ払いや学生の騒ぎ声、変な団体の街宣にキャッチの声と、様々な色で満たされている。懐かしいけれど、少し嫌悪感を感じる程度に……汚い。そんな人混みの中でも、草加は迷わずに進んでゆく。
「こっちに行きつけの呑み屋があってよ!」
私はというと、慣れていない人波で見失わないように足を速めた。傍の繁華街を通り、右へ左へと道を変えてゆく。そして、こじんまりとした居酒屋の扉をくぐった。本当に行きつけらしく、店長らしき男性が草加を笑顔で歓迎し、すぐさま席へと案内された。席へ着くと、ジャケットを脱ぎ、とりあえず生ビールと食べ物少々をたのむ。店員が注文を取り姿を消すと、二人とも疲れを解すように深く息をついた。
「まさか、浅野とこんなところで会えるとはなぁ」
「私も想像してなかったよ」
私がはははとぎこちなく笑うと、草加が怪訝そうに首を傾げる。
「な、なに?」
「……なんで標準語なん?」
「五年も東にいれば、言葉も移るよ」
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